プラネットEartH of 波止場通信


プラネットEartH

モトコーからアート、文化、街を刺激する
宮崎みよしさん

宮崎さん.JPG

ビエンナーレで異彩を放ったモトコー会場

モトコー会場.JPG 2011年に開催された神戸ビエンナーレで大きな注目を集めたのがモトコー会場である。「あんなに寂れた場所でアート展をしても大丈夫なの?」と不安視する声もあったが、実際にビエンナーレが始まってみると、来場者に最も人気が高かったのがモトコーだった。高架下商店街という日常空間の中にある13の部屋に足を踏み入れると、アートに彩られた非日常の異空間に身を委ねる体験は、観客にとっても刺激的だったに違いない。とくにこれまでの会場に比べて、高さのある空間は垂直へと導く視線の愉悦をもたらした。
 そしてこのモトコープロジェクトの代表が、モトコー2丁目にあるギャラリーカフェ「プラネットEartH」を拠点に活動するアーティストでありプロデューサーである宮崎みよしさんである。モトコー会場のボランティアスタッフたちは会期中、このプラネットEartHを拠点に活動していた。ほぼ狙い通りの成果をあげたことに宮崎さんも、「してやったり」の気持ちをもっていたに違いない。今回のプロジェクトの成功は、モトコーの再生と可能性を考える上で大きな示唆を与えたように思う。

モトコーに拠点を持つということ

モトコー4丁目.JPG 神戸の元町駅から神戸駅の間にある元町高架通商店街(通称:モトコー)は、かつては最も神戸らしい商店街の一つとして活況を呈していた。神戸港停泊中の時間を利用して外国人船員たちが中古の家電製品などを下げて歩いた姿がよく見られたものだ。だが、貨物船のコンテナ化が進んで以来、船員数は激減。景気低迷も加わり、モトコーはシャッターを下ろした空き店舗が増えてきた。とくに西に行けばいくほどシャッター率が高くなり、人通りも少なくなる。
 私事になるが、昨年5月某日、新しいオフィス候補がモトコー6丁目にあるということで、三宮から高架下を西へ西へと歩いていった。モトコー4丁目あたりからシャーターだらけとなり、寂れ度が増してくる。ゴーストタウン一歩手前の崖っぷち状態だ。ふっと息を吹きかければ、すべて消えてなくなるのではないか。かつて賑わっていた場所だけに、逆に哀れさがいや増すのだ。「こんな仮死状態のような場所で仕事ができるのだろか?」私は不安で胸がかきむしられそうになった。そう、現在のモトコーとはそんな場所になっていた。

 そのモトコーに、2008年12月、宮崎さんはアート展示やイベントができるギャラリーカフェ「プラネットEartH」をオープンさせた。なぜ、モトコーだったのか? という私の問いに対して答えた、「匂いがしたのよ。何か面白いものが潜んでいる匂いよ」と。「面白いものとは?」と畳み掛けて訊くと、「何かお化けが潜んでいるから。日常の表層の奥に何かがあるような。そこで展覧会をやることで、ああ、ここに隠れていたんやなとわかってくる」。

場所が孕む「記憶と予感」

 「お化け」という単語から、彼女をカルト系のアーティストだと早合点してはいけない。ここでいうお化けとは、その場所で生活をしてきた人々の記憶や息づかい、あるいはそこで起きた様々な事件や歴史のことを例えてお化けと称しているのではないだろうか。
 古代ローマ神話に「ゲニウス・ロキ」が登場する。ゲニウスが守護霊で、ロキが場所。つまり土地の精霊のことだ。それぞれの土地には、場所に蓄積された記憶と、場所が喚起する予感がともに浸透している。現代建築学では、このゲニウス・ロキ、つまり土地の雰囲気や気配、土地柄を大切にしてランドスケープを設計することが重要だと言われている。それはアートでも同じことが言えるかも知れない。場所が孕む「記憶と予感」を鋭敏に嗅ぎ取り、それを形にしていくという作業。それは森に分け入る狩人が獲物の匂いを嗅ぎ取る力にも似ている。どうやら宮崎さんには、この原始的・野性的本能が備わっているようだ。

「地力」から生まれるアート

 プラネットEartHとは別に、宮崎さんは「地力。」展を2年ごとに六甲アイランド、モトコー、ローズガーデンなどで開催していた。「地力」とは、先に述べた「ゲニウス・ロキ」(地霊)に通じるものだろう。
 2010年5月に開催したローズガーデンでの「地力Ⅲ」展について、自ら代表を努めるNPO法人リ・フォーブのホームページで、次のように記している。

 現代芸術はその作品のもつ自由さが見る人に現在と未来を提示(イマジネーション)してくれます。それはその場に潜んでいる「今」を真摯に探索し、そして「次」に向けての提言でもあります。
            (中略)
 芸術を提示することは、「地の力」を探索し認知することであり、変わりゆくこの地区を再度見直し、新たな発掘を試みます。

 宮崎さんは私に語る。「ローズガーデンって、かつては憧れの的でしたが、いまは寂しい状態になっています。それはなぜなのか? あそこで展覧会をやることで周りの風景が見え、その理由もわかりました」。異人館が立ち並び、さまざまな民族文化が混在した北野エリアは、つねに神戸文化の最先端を演出してきた場所である。その北野エリアの地力を感じ取ったようだ。

西元町.JPG ちなみにNPO法人リ・フォーブの場所は、元町通6丁目にある。阪神西元町駅が一番近い。いまは人通りも少なくなってきた西元町エリアだが、明治から昭和初期の間は、神戸の中心地であり、南北に走るメインストリートには、三菱銀行神戸支店(現ファリミアビル)、鈴木商店本店(三井、三菱を凌ぐ勢いだった総合商社)、神戸新聞本社、三越神戸店、神戸中央郵便局などの建物が堂々たる偉容を誇って建ち並んでいた。
 「ここも匂ったのよ。何かあるって。で、調べてみたら、かつての中心地だったのね」。というわけで、界隈を徹底的に調べて、『西元町駅周辺おもてなしマップ』を作成した。まさに、探索し、発見し、見直した結果である。

生き様をどう表現するか。そこが楽しみ!

ギャラリースペース.JPG 話をプラネットEartHのあるモトコーに戻そう。
 先ほどの「地力Ⅱ」をモトコーで開催したのが2008年5月。そこでモトコーに強烈に惹き付けられ、ここを拠点に活動したいと考えた宮崎さんは、知人から借りたスペースで、同年12月、プラネットEartHをオープンさせる。1、2階あわせて4つの空間を有するアート、イベント、カフェの複合施設である。
お金がないから多くが手作りだ。逆に手作り感がオリジナリティの高さになっている。一番上にある宮崎さんの写真をご覧いただきたい。背後に青白く光っている円形が描かれた作品は、彼女が制作したものだ。「オープンまで時間もないし、何か作らないといけない。そこで大きなトレーシングペーパーがあったので、それを使って…」。作品名は「まる」。ただの丸だ。直線ではなく、円形は想像力が湧いてくるという。

セミナー.JPG 拠点をオープンさせて以来、実に多くの展覧会やワークショップ、音楽会、セミナー、討論会、講談など多彩なイベントや講演が開催されてきた。
 会場を貸してほしいという依頼は次々に舞い込むが、ビジネスがらみは断っている。あくまでアートやまちづくりなどに役立つことに使ってほしいという想いからだ。だからレンタル料も安く設定している。
 展示されているアートは、現代アートが中心。なぜ現代アートなのか?
「いや、現代アートじゃなくて、今のアートですわ。いま生きている作家が、何を考えて生きているか、ということが大事。アーティストは自由に発想し、自由に生きている存在。そこから何か新しい何を生み出す力があると思う。それがないのは現代のアーティストじゃない。自分がどうきているか、どう表現しているかが大事。そこだけですわ、私の楽しみは」。
 と話しながら宮崎さんは屈託なく笑う。

モトコーの地力を発掘し、新たな刺激を!

モトコー冊子.JPG いまプラネットEartHは、A2四つ折りサイズのリーフレット「元高 モトコー」を発行している。文字通り、モトコー商店街の情報誌であり、毎号、商店やモトコーの歴史などをマニアックに紹介している。最初は学生たちが取材・原稿作成に関わっていたが、最近は宮崎さん自身が商店主に会って取材している。
 「おもしろうてね。個性的なお店ばかりでしょ。商売というよりも、自分の好きなコレクションを、自分勝手な陳列方法で並べている感じがしてね。これらのお店自身、十分アートしていますよ」
 戦後の闇市から始まったモトコーの歴史をリーフレットに紹介しているが、改めて勉強会も開催する予定だ。
 また、モトコーの位置がおもしろいという。「この通りが神戸の中央分離帯みたいなもので、北側は山の手、南側は浜の手になります。どちらに出かけるにも便利やし」
 プラネットEartHを拠点にしながら情報発信力の強化を図り、若手アーティストや文化人の育成に活躍する宮崎さんは、モトコーの魅力を味わい尽くしている。だが現状に満足はしてない。例えば、西元町の復活についても、「暗渠にした宇治川をもう一度掘り返して、船でも浮かべたらどやろ? 風景変わるで」と大胆な提案をする。
 おもしろいものを嗅ぎ取る本能を備えた彼女は、地力を蘇らせる原始本能的な「女力」を備えている。モトコーの潜在的な魅力を顕在化させるためにも、さらに神戸の文化力を高めるためにも、「これからもっと刺激的なことを仕掛けてきたい」と語る。今後、いったい何が飛び出すか、どんな奇跡が起きるのか、楽しみにしよう。

宮崎みよしさん

神戸で生まれ育つ。美大卒業後、アイーティスの仲間たちと「リ・フォーブ」を結成。2000年、リ・フォーブが特定非営利活動法人に認定され、代表に就任。2008年12月、ギャラリーカフェ「プラネットEartH」をオープンさせる。

バーカウンターにて.JPG

入口.JPG

プラネットEartH

神戸市中央区元町高架通3-172(モトコー2)
IPphone:050-3716-3540
LinkIconhttp://プラネットearth.jp/

服部弘子さん(陶芸家)
子どもの表情を動物に託す

服部弘子さん.JPGプラネットEartHのカフェ&バーカウンターには、日替わりで女性スタッフが対応してくれる。私は密かに日めくりウーマンと読んでいる。クリエイティブ空間で働くスタッフたちもまたアーティストであることが多い。
 水曜日担当の服部弘子さんは陶芸家である。10年前に油絵から陶芸に興味の対象を変えた。土をこねていると不思議と心が癒され、陶芸にのめり込んだ。最初は伝統的な食器類や花瓶などを造っていた。平成22年3月、お客さんの反応を知りたくて神戸・北野に自らのお店「お洒落陶房 Hiro」を開店した。だが、反応はあまりなかった。

作品.JPG 自分の作品で人の心を動かしたい。これまでの器ではそれができていない。どうすればいいのか? 悩んだ末にひらめいた。自分の強みは、母親として2人の子どもを育てた経験をもつことだ。子どもたちの笑顔は何物にも代え難く、つねに癒されてきた。子どもの表情を動物に託して造形してみてはどうか。
 服部さんは動物シリーズを造り始め、お店に並べた。すると反応があった。同じ子育て経験のある女性たちは、作品を手に取るなり、目を輝かせて言う。「可愛い!」「連れて帰りたい」。確かな手応えを感じた瞬間だった。
 この他にも、味わいのある羊シリーズや、おじさんたちが空を見上げているシリーズがある。そう、苦しい時や辛いときは空を見上げよう。「見上げてごらん夜の星を」(永六輔作詞、いずみたく作曲)の歌を口ずさみたくなるだろう。
 彼女の作品には多くの人々の心を癒す不思議な力がある。ささやかな幸せを抱きしめようとする母親の愛を感じさせる。多く人が彼女の作品で癒されることを願うばかりである。


羊.JPG見上げる.JPG

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