國府理さん of 波止場通信


■アーティスト 國府 理 さん

乗り物から植物へ。
自然と文明の狭間で揺れる人間への眼差し


Electriv Tricycle.JPGElectric Tricycle(1994) 48V-800Wの電動モーターを動力とする三輪自転車

■出会いは、不思議な乗り物だった

 國府作品との出会いは、プラネットEartHだった。広い展示スペースに作品が床に置かれていた。4点のうち3点が乗り物らしきものだった。「らしき」と付けたのは、他でもない、タイヤも動力も付いていて乗れるような気がしたからだ。それにしては通常の乗り物とは一線を画している。一体これはアート作品なのか乗り物なのか。いや、乗り物をモチーフにしたアート作品なんだろうけど、実にユニークで不思議なものだ。プラネットEartHの店主・宮崎さんに訊ねれば、「実際に動くらしいよ」とのこと。となると、ますます不思議な気がして実際に乗りたくなる。でも絶対に公道では乗れないはずで、広場で試すしかないだろう。
 幸いにも、こんな不思議な作品をつくった國府さんに取材することができた。
「これって、動くんですね?」
「動きますよ。でも操作はけっこう難しいと思います」
 プラネットEartHにあった3点は、写真の通りである。
 「プロペラ自転車」なんかはすぐに実用化できそうな気もするが、後ろのプロペラが危険といわれて、認可されないかも。でも、一度は試してみたい。「Electric Tricycle」は、低い車体で、走ると速そうだ。「Tug tricycle」は力強くて、ダイナミックなフォルムが斬新だ。
 いずれも機能と造形フォルムを見事に統一させた作品であり、また、実際に乗りたいという欲望をかき立てるものだった。


プロペラ自転車.JPGプロペラ自転車(1994) エンジン動力の風力自転車 Tug tricycle.JPGTug tricycle(1995) 高減速比強力三輪車



■身近な乗り物をモチーフに制作

 子どもの頃から車輪がついた乗り物が好きで、そうした絵をずっと描いていたという國府さんは、京都芸術大学の彫刻科に進学。鉄とメカに興味を持つ者として、最初は、ティゲリーのような作品を作っていた。やがて自分にとって最も身近かな乗り物をモチーフとして作品を作り出す。
 「現実の世界じゃない、どこかに架空の世界に行きたいという気持ちがあって、そのために架空の乗り物を創造しはじめたわけです。ただ実際に動いた方が、リアリティがでて、自分が行きたいところに行けそうじゃないですか。だから動かせる構造と強度を持たせています」(國府)
 現実世界の構造を利用しながら、実際には役に立たないものをつくる。実用と架空の間、具象と抽象の間、この絶妙のバランスが、見る物の心をくすぐり、夢を膨らませる。乗り物の進化の過程で今の形に落ち着いているわけだが、ひょっとしたら國府作品のような形態へと進化を遂げていたかもしれない。そんな空想が広がっていくのだった。

■バーニングマンの乗り物を連想

 國府さんの乗り物の作品をみたとき、私は「バーニングマン」に出てくる奇抜な乗り物を連想した。バーニングマンとは、アメリカネバダ州の砂漠で、たった1週間だけ開催されるお祭りで、5万人もの参加者全員が仮装とパフォーマンスを繰り広げ、100以上の音楽ブースが作られ、500以上のドームが建てられる。で一週間後にはきれいになくなる。それは全員が参加する巨大なサーカスのようなものだ。そのバーニングマンでは、様々にデコレーションされた奇怪な乗り物が走り回っている。
 想像力を駆使した刺激的乗り物という点において両者は似ているが、バーニングマンの乗り物は、開拓幌馬車民族であるアメリカ人らしく、巨大で馬力のある派手な乗り物がメインであるのに対して、國府さんの作品は、もっとコンパクトで、機能性や造形美、ユーモア感覚を交えたものが多いように思う。

■植物をモチーフに、新しい地平へ!

 取材時に、國府さんからいただいた最近の作品を集めたカタログには、従来とは違う視点での作品が現れていた。
 「車輪がついていることによるロマンチシズムを表現してきたけど、外に出て行くだけがポジティブとして肯定されていいのかと。もう少し、足下を見つめ直したかった。そこで植物を一つの生き方としてとらえることができるのではないか思ったわけです」
 そこで生まれたのが「Parabolic Garden」「Garden on the Desk」「Garden on the Top」などの植物シリーズである。だが、これらの植物は地面から切り離され、パラボラアンテナの上や机の上で自生させるという形態をとっている。ここに、機械文明と切り離せなくなった現代社会を見つめるアイロニカルな視点がある。

■空飛ぶクジラの化石が意味するもの

 もう一つ、注目すべき作品が、巨大な「ROBO Whale」。フォルクスワーゲンの廃車を改造し、空飛ぶクジラの化石を現出させた。かつて大阪が海面に沈んでいた頃のクジラの化石が発見されたことに刺激をされた制作したそうだ。気候変動によって左右される生き物の運命は、何もクジラだけでない。だがその巨大さゆえ、象徴的に語られやすいのがクジラともいえる。鉄でできたクジラの化石は空を飛んで海へと向かうが、鉄ゆえに海の中には入れず、空中を彷徨うことになる。自然と文明の狭間で揺れる人間もまた同じ運命なのかも知れない。こんな幻想をかき立てるのが國府作品の魅力であり、私はすっかりはまってしまった。これからも追いかけたいと思う。


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プロフィール

國府 理 さん

1970年 京都府生まれ
1994年 京都市立芸術大学大学院美術研究科修了(彫刻専攻)


顔写真1.JPG

COLUMN

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