海文堂書店 of 波止場通信


海文堂店長、最後のメッセージ

 ご存知のように、神戸における活字文化の拠点「海文堂書店」が9月30日に閉店した。活字離れ、ネット書店の台頭などの逆境の中で果敢に闘い続けた海文堂も、創業99年4ヵ月でついに幕を閉じることになった。
 閉店当日は、写真を見ても分かるように大勢のファンが詰めかけ、閉店間際まで本を購入し、最後の別れを惜しんだ。「これだけの人が毎日、海文堂にくれば閉店しなくても良かったのに」と、海文堂スタッフは思ったに違いない。
 最後の客が出てから、スタッフ達が店頭に並ぶ中、福岡宏泰店長が挨拶をした。その最後のメッセージが頭から離れない。そして少しでも多くの人たちに知ってほしいと思った。

「いま街から本屋がどんどん全国的になくなっています。最後に皆さんにお願いをしたいのは、確かにネットは便利なんですけども、街にまだ残って頑張っているリアル書店を使ってあげてください。でないと、この国から本屋がなくなってしまうかも知れません」

 そういうことなのだ。

外には大勢の人.JPG福岡店長.JPG






海文堂書店

いつも何かやっている!
「海文堂書店」のしなやか発信力

海文堂書店・店頭.JPG

なぜ、いま海文堂なのか?

神戸在住の本好き人間なら、「海文堂書店(以下、海文堂)」の名前を知らない人はいないだろう。私も名前は知っていた。だが知っていることといえば、海事関係の専門書店で、いまも海事関係に圧倒的に強みを誇っていること。そして、著者のサイン会をやっていたり、古本も扱っているくらいの知識しかなかった。
 場所は、元町通3丁目。ポーアイから三ノ宮経由で大阪に勤務していた私にとって、海文堂は少し離れた場所のように感じていた。それでも何かの用事で前を歩くようなことがあれば、必ず店内にはいり、金魚のようにぶらぶらと回遊したものだ。

 そして昨年9月、オフィスを西元町に移転したため、海文堂は急速に身近かな存在になった。オフィスから歩いて10分くらいだろうか。改めて、海文堂の店内を回ってみると、海文堂通信「海会(カイエ)」(A4・1頁・両面印刷)や、編集協力として関わっているA5の小冊子「ほんまに」があったり、1階にも新刊の横に古本が並んでいたり、と他店にはない特色と魅力を備えた書店だと気づかされる。
 海文堂の創業は1914年(大正3年)だから、今年で98年、2年後には100周年を迎える。これほどの歴史を誇る書店が、全国にどれくらい残っているのだろうか。
 いま出版業界は、若者の活字離れによる不況のただ中にあると言われる。さらに電子書籍の登場、アマゾン・ドット・コムに代表されるインターネット書店の攻勢などが重なって、中小の書店が全国の町からどんどん消えつつある。2000年には約2万軒あった書店が、2011年には約1万5000軒にまで減っているのだ(個人的にはもっと減っているような気がするのだが)。
 こうした逆境の中にあって、老舗の中規模リアル書店、海文堂の健闘ぶりと存在感は神々しく実に貴重である。福岡店長に取材をお願いして、快諾を得た。

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書店員は、棚の編集者

海事コーナー.JPG海事関係の書籍がずらり並ぶ海事関連グッズ.JPG海事関グッズも充実 海文堂の特徴として一番に挙げるべきは、やはり海事関係の書物やグッズの充実ぶりだろう。海事関係の出版社としてスタートして、その後、書店を開いたという歴史をもつ、国際貿易都市・神戸ならではの書店。神戸港が多くの人で賑わった頃は、港湾関係者が足しげく海文堂を訪れ、必要な書籍を探したに違いない。
 港湾関係者が激減した今もその伝統は2階売場にしっかり受け継がれている。船や海に関する書籍・雑誌はいうに及ばず、船をモチーフにしたポストカード、定規、ファイル、便せん、メモパッド、ビンバッジ、バッグ、マグカップなど挙げれば切りがない。


 他の売場に目を移そう。海文堂では、海事関係、文庫本、新書と文芸書、実用書、児童書など分野別に売場の担当者が決められている。「一人がやめて新しい人が入ってくると棚ががらりと変わります」と福岡店長がいうように、書店員は棚の編集者でもある。担当者の個性や好みが棚に影響を及ぼす。だから「100人いれば、100通りの棚ができる」。これが書店の世界であり、楽しみなのだ。店内を巡ると担当者たちの想いが息をひそめてぎっしりと詰まっていることに気づくだろう。

児童書コーナー.JPG手に取って読みたくなる児童書コーナー 魅力的な棚が並ぶ海文堂の中で、海事関係に次いで特色あるのが、児童書の充実ぶりだ。その分、マンガ本のスペースが減っている。児童書の女性担当者・田中智美さんは25年以上ずっと同じ。絵本の世界に精通しており、2代続けて彼女のファンというお客様もたくさんいる。「子供の成長にとって、児童書は大きな役割を果たしています。いつまでも心の糧となるような本を提案したいですね」と語る。


オリジナルブックフェアこそ、腕の見せ所

ショートストーリー.JPGショートストーリーフェア 書店員たちの編集能力が最も発揮される場所が3カ所ある。それが1階の西入口横、東入口横、階段下のコーナーであり、「海文堂オリジナルブックフェア」を開催。年間で「○月は○○さん担当ですよ」と各担当者を割り振っている。
 どこの書店でもブックフェアは花盛りだが、実はほとんどが出版社が用意したもので、書店側が申し込むだけ。全国で同じようなフェアが開催される。
 「でもこれじゃ、面白くないでしょ。ない知恵を絞って、自分たちでテーマを決め、並べる本のリストを作ります。私も3月は西入口横、5月は階段下を担当しています。3月は“ほんまにと海文堂”をテーマにしたもの、5月はエンディングノートなど“死”をテーマにしたものでフェアを考えています」と福岡店長は並べる予定の本のタイトルを蟻のような小さな文字で書き込んだ手帳を見せてくれた。

ほんまにフェア.JPG「ほんまに」バックナンバーフェア担当者にとって大変な仕事だが、企画力を含めたソフト力を高めるには絶好の機会。まさに書店は人が財産である。

普通の本屋であること

 だが、気をつけないといけないのは、ベストセラー本をばかにしないこと。ベストセラー本もちゃんと売るバランス感覚が大切だと言う。「ベストセラー本の売上げがあればこそ、他ができないこともできるわけですからね」。
 かつて元町通りには書店が3つあったが、今は海文堂だけになってしまった。だから総合中型書店として地域の幅広いニーズに応える役目も担っている。ある程度幅広い品揃えは必要であり、ベストセラー本も並べる。その意味で「フツーの本屋」であることの大切さも忘れてはいけない。
 「それができるのも、海文堂が中型店だからで、小さなお店だったら、セレクトショップにならざるを得ないでしょうね」
 店長自身、本好きが高じてJAの金融関係の堅い仕事を辞めて書店の世界に飛び込んだ人間だ。大好きな本を扱いながらも、ビジネスとして成立させる絶妙なバランス感覚を持っている。「普通の本屋でありながらも、こだわりと神戸らしさを感じてもらえる本屋でありたい」と店長は語る。

新刊本と古本が、仲良く並んでいる!?

元町古書波止場.JPG2階にある『元町古書波止場」 絶妙なバランス感覚と、固定概念に縛られない、しなやかな発想は、古本の扱いにおいて際立っている。
 海文堂の特色について触れるとき、古本を海事関係の次に取り上げるべきだったかも知れない。たぶん新刊書店の中で一番早く古本を併設したのは海文堂ではなかろうか。2008年4月から不定期に「海文堂の古本市」を開催し、2010年12月には2階の3分の1のスペースに常設の「元町 古書波止場」をオープンさせた。ここには4軒(やまだ書店、一栄堂書店、イマヨシ書店、あさかぜ書店)の古書店が入っている。
 新刊書店に古書店があること自体が珍しいが、それより驚いたのが、1階の棚にごく普通の顔をして新刊書と古本コーナー(ちんき堂、トンカ書店、古書善行堂)が横に並んでいることだ。これは妻と愛人が同じ部屋に仲良く暮らしているような(この比喩は間違っているかも)、犬と猿が肩を組んでいるような(これも違うか?)、いずれにしてもその意外な組み合わせに軽いショックを受け、シュールな気分に浸ったのだった。
新刊書の横に古書.JPG新刊書の隣に古書が! なぜ、新刊書店と古本の組み合わせなのか?
 「いまは新刊が多過ぎて、逆にいい本でもすぐに絶版になってしまう。お客様から要望された本を、出版社に注文しても、品切れだったり絶版だったりしたら、すいませんと謝らないといけない。これは新刊書店の宿命なんですね。じゃあ、お客様の要望に応えるために、古本もあるというのはどうかな、と思ったんですよ」と店長は古本併設の背景を語る。
 もともと、海文堂の店員自体が、古本好きが多くて、福岡店長自身、好きな作家の本を求めて、古書店巡りをしていた経験者でもある。こうして、(たぶん)全国初の古書併設の新刊書店が誕生したというわけだ。これで品揃えの奥行きが深くなり、新刊から古本まで探す楽しみが増えたことは確かである。

トークイベントやサイン会も、海文堂の強み

 特徴が多すぎて紹介する方も戸惑うが、2階のギャラリースペースを使ったトークイベントやサイン会もやはり見逃せない。海文堂のHP(http://www.kaibundo.co.jp/)、海文堂通信「海会(カイエ)」などに告知をしているから、見た方もあるに違いない。あるいは参加された方もいるだろう。
 今年の例でいえば、1月22日に「北沢夏音著『Get back,SUB! あるリトルマガジンの魂』」発刊トークイベントが、2月5日には、太田治子(父は太宰治)さんサイン会が行われている。
 私は1月22日のトークイベントに参加したが、当日は56席が満席状態で立ち見が出るほど盛況だった。当然、本も売れる。
 「著者や出版社から話があって、実現させたものばかりです。準備は大変ですが、それでも多くのお客さんにきていただき、本も買っていただけるのはありがたい」と店長。トークイベントを行うことで、これまで海文堂に来たことない方が来店したり、知名度アップにもつながるという。
 「海文堂は、いつも何かやっているなと感じてもらい、関心をもってもらえればいい。少しでも足を運んでいただける機会を増やすことが大切かなと思っています」
 そう、いつも何かをやっている海文堂。だからファンは海文堂の動きから目を離せなくなる。

小冊子にみる、海文堂のDNA

カイエ.JPG そして最後に紹介したいのが冒頭でも触れた海文堂通信「海会(カイエ)」(無料)と「海会(カイエ)」別冊の小冊子「ほんまに」(500円)である。
 「海会(カイエ)」は毎月3000部発行。すでに100号を超えている。人文書担当の平野義昌さんの「本屋の眼」(みずのわ出版)など、連載記事から1冊の本になったものもある。
 「ほんまに」は、年2回(スタート当初は年4回)の発行。「神戸と本」をテーマに書評あり、日記あり、座談会あり、作家の書斎訪問ルポありとバラエティ豊か。書き手は神戸在住の作家・評論家をはじめ、様々な職業の人たちが登場する。もちろん海文堂の書店員たち、編集・発行元である株式会社くとうてんのスタッフたちも加わっている。
 だが、この小冊子も2011年11月発行のVol.14をもって休刊となった。「でもいつ再刊するかわかりません。そのときを楽しみにしてください、といっています」と福岡店長は笑う。ちなみに海文堂に行けば、ほんまに.JPG「ほんまに」のバックナンバーが揃っている。
 A4・1頁の「海会(カイエ)」の規模なら他の書店も出しているところは多いだろうが、編集協力の形といえ小冊子まで定期的に発刊する書店は少ない。「もの申す」書店としての面目躍如といったところか。もともと出版社としてスタートした書店だけに、受け手でなく、自ら発信したいというDNAがいまも脈々と息づいているのかも知れない。

総合中型書店の限界に挑む

 これまで紹介した内容から、海文堂が、中型書店として何ができるのか、その限界を極めるように様々なことにチャレンジしている姿勢を読み取ることができよう。
 では冒頭でも触れた電子書籍の登場やネット書店の台頭など、書店がおかれた最近の状況を福岡店長はどう考えているだろうか。
 「電子書籍が登場したように、文化面でも押し寄せているデジタル化の波を止めることはできません。だが本の場合は、写真や音楽ほど極端なことにはならず、今後も活字の本も残るでしょう。でもどういう残り方をするのかが問題です」と話す福岡店長は、オリジナル通信の新年の挨拶の中で「考えさせられる・役に立つ・楽しい「紙の本」を、当店は今年も毎日商ってまいります。」と高らかに宣言している。

 インターネット書店の台頭に対してはどうか。
 「ネット書店で働いて楽しいんでしょうかね。お客様と向き合い、話し合う機会のない状況は、私は考えられないんですよ」
 同感である。私自身、ネット書店の代表格であるアマゾンに興味があり『潜入ルポ アマゾン・ドット・コム』(横田増生著・朝日文庫)を読んだところ、アマゾンでは、本の知識は皆無でもかまわない。それはフリーロケーションという手法が採られているからであり、リアル書店とは真逆の世界なのだ。本が好きな人間には耐えられないだろう。
 お客様と面と向かい、「こんな本、ないの?」といった要望には、持てる知識を総動員してきちんと対応する。「この前すすめられた本、面白かったで」といった声に喜びが湧いてくる。こうしたリアルな関係こそがやはり貴重だと思う。

負け戦を戦いつつ、次の一手を模索

 だが、実際の現場で日々戦っている人間には大変なことも多い。
 「いまは、負け戦を戦ってやるで!の心境ですね」と福岡店長は表現する。負け戦の美学を貫く覚悟なのだ。「私はもう定年間近なんで、そんなことを言っておれますが、若い書店員は、そうはいっておれません」
 確かにその通りだ。先に触れた小冊子「ほんまに」(Vol.11)の特集タイトルに、思わずどきりとした。「非カリスマ書店員座談会 10年後も本屋でメシが食えるのか」。海文堂の書店員だけでなく、神戸エリアの書店に勤務する書店員が集まって熱く語りあっている。特集タイトルを見ただけでも、切実さが伝わってくる。内容も実に興味深い。
 結局、いまの出版状況を一番正確に把握しているのは、大手の出版社や取次の人間ではなく、書店の現場で働いて、業界の矛盾や焦燥感を肌で感じている彼らなのだと改めて思い知る。ちなみにこの号は東京でもよく売れたそうだ。
 本をこよなく愛する若い書店員の人たちが、問題意識を持ちながら真剣に戦う日々から、新時代に相応しい書店のあり方が見えてくるかもしれない。海文堂が今後どう進化し続けるのか、楽しみでならない。



<海文堂書店>
〒650-0022
神戸市中央区元町通3-5-10
TEL 078-331-6501  FAX 078-331-1664
ホームページ http://www.kaibundo.co.jp

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