トンカ書店

<第1回>

頓花 恵さん

(トンカ書店 オーナー店主)

レトロで不思議な古本屋さんは
ザックバランで、居心地がいい。

<プロフィール>
頓花 恵さん
兵庫県出身。大学在学中に古本屋でアルバイト。卒業後、一般企業、新刊書店、古本屋と転職し、2005年12月に「ザックバランな古本屋、トンカ書店」をオープンさせる。以来、これまでの古本屋さんのイメージを超えた不思議な雰囲気の本屋さんとして人気を集める。
http://www.tonkabooks.com/

頓花さん.jpg

プロローグ

古本屋さんで展示会? なにそれ?

 知り合いの女性から「切り絵の個展やっているから、良かったら見に来てくださいね」と誘われた。展示場所は『ザックバランな古本屋、トンカ書店』と書かれている。キャッチフレーズも店名も妙に気になる。場所はトアウエストの一画で、取引会社のすぐ近くだったので覗いてみたのが、トンカ書店を訪れた最初だった。
 店内はとても不思議な空間だった。その時は美術関係や絵本が多いように感じたし、何よりも目を引いたのが、雑貨の多さだ。ブリキのおもちゃ、ペルー製の太鼓、キューピー人形、陶器類があったりする。音楽は確かサントリーのウーロン茶のCMソングだったはずだ。何ともレトロな雰囲気に溢れている。一画は小さな展示スペースになっていて、誘ってくれた女史の金魚の切り絵が壁面を飾っていた。
 30分ほどいただけだったが、その間、次から次とお客さんが訪れる。若い女性も多く、子連れや若いカップルの姿も。その後、数回訪れたが、いつも来店客が絶えない。
 店主の女性と話す機会があり、明るい笑顔とてきぱきとした応対、そして古本や雑貨への愛情がひしひしと伝わってきた。彼女の魅力に引きつけられて、多くの客が訪れ、彼女の個性がこの不思議な空間を形づくっているのだと確信した。
 「ぽれぽれ広場」に登場していただこうと考えた私は、さっそくインタビューを申し込む。「まったくの他力本願なんですよ。お客さんが持ってきはった本や雑貨を並べているだけで、私の力なんかまったくないんです。そんな私が出るなんて、とんでもない」という彼女を何とか説得してインタビューを敢行。おかげで古本業界のことも少し知ることができた。ありがとう頓花さん。皆さんも写真とインタビューをお楽しみあれ。

店内の様子Web.jpg左にまんが、奥に雑貨、右に絵本、中央が雑誌
DSCN8314Web.jpg絵本棚の一角
美術書関係Web.jpg美術関係も見やすく
太鼓にキューピーWeb.jpgペルーの太鼓もすぐに売れました
堀尾貞治Web.jpg具体美術の堀尾貞治氏の作品も
CDや音楽関係Web.jpgCDや音楽関係
若い女性客Web.jpg若い女性客も多い
雑誌棚Web.jpg雑誌棚には 「流行通信」などが
雑貨コーナー.jpg雑貨コーナー
イベントの案内Web.jpgボードにはイベント案内も
展示スペースのソファWeb.jpgソファでお茶もOK
金魚の切り絵Web.jpg3壁面をつかって展示

*写真をクリックすると大きくなります

大学時代、各地の古本屋に行くのが楽しみだった

━━━トンカ書店というネーミングが気になりました。どこか南洋諸国のイメージがしますが。

  • 2階にあります.jpgいえいえ、本名(旧姓)の頓花からつけたものです。皆さん、「トンガですか?」なんて訊かれますけど(笑)

━━━お店の品揃えと雰囲気がとってもユニークですね。

  • 古本の買い取りももちろんやっていて、ここにあるのは全部、お客様が持ってもられたモノばかりなんですよ。何が入ってくるか分からなくて。こんな感じになったのも、私の力ではなくて、全部、お客様さんの力なんです。

━━━表紙が見える本もたくさんあって、見やすく展示されていますね。

  • それも、もともと本が少ないので、ぎっしり埋めるほどないのかな、というのもあります。表紙を見て気に入ってくれる方もおられるので。

━━━どんなきっかけで古本屋を始められたのですか?

  • 2005年12月にオープンしたので、2010年12月で5周年やったんです。今年で6年目になります。何で始めたかと言われると、別に大きな意志があったわけではなく、本が好きだったのと、古本屋で勤めていたので、最終的に自分でやるのが一番気楽だということになったんですよ。

━━━いつから古本に興味が?

  • うち、篠山市出身なんですけど、篠山には、本当に小さな本屋さんしかなかったんです。祖父母は神戸の人だったので、神戸にはよく来ていました。そして学生になって神戸に住むようになりました。都会には大きな本屋さんがあって。それが嬉しくて行き続けていたら、今度は古本屋さんの存在に気づいて‥。古本屋さんは本が安いし、新刊の本屋さんには売っていないような本もあるし。こんな楽しいことはないと‥。旅行に行くといったら、古本屋さんのあるとことばかり行っていたんです。
  • 最初は近隣の大阪行って、京都行って、名古屋行って、東京行って。学生のもてるお小遣いを持って深夜バスに乗って神田に行って。もう嬉しくて。買った時は、価値あるん、ちゃうかと思って。後から見たら二束三文のような本を高く買っていたとか。それでも楽しかった。

━━━そこまではまっている大学生がいたとは。

  • 本が好きやのに、あまりにも実家の方に本屋がなかったのが、こんなふうになったのかな。楽しかったんでしょうね。結局、大学4年生の時から古本屋さんの店番をさせてもらうことになったのが、この世界とのご縁になりました。週に1回ほど、店番させてくださる非常に優しい古本屋さんにお世話になって。それで、こんな本屋さん、ええなと。卒業後、普通の会社に就職するんですけど、すぐに辞めて新刊書店で働いて。また、別の古本屋さんに就職して。その間も店番させてくださったその古本屋さんにはずっと長いことお世話になりました。

古書会館のある花隈のつもりが、オシャレな今の場所に

━━━古本屋さんは、まず古本がないと商売できない。

  • 通常は古書組合に入って、そこで行われるセリ市に参加し、自分のほしいものを買って、お店に並べる。ただ、組合員になるにも、まとまったお金がいるので、最近の若い方だったら、独自のやり方をされる方もおられます。例えば、海外の洋書絵本であるとか、アート系のものになると、独自の仕入れや直接買い付けをされると思う。ただ、昔からされている方、例えば、文学専門とか、映画専門とかになったら、組合の市に行かれて、そういうものが出たらセリ落とすというのが基本だと思います。私はもともと組合に入るつもりで始めたんですけど。

━━━スタートするときに、ある程度の量がいりますね?

  • 正直、持っている本はそれなりに多かったと思うんです。普通、3000冊から古本屋さんができると聞いていました。有り難かったのは、私が古本屋を始めると知ったお客さんや知り合いが、段ボール10箱とか、そんな感じで一度に送ってくれはった。結局、自分の本をほとんど使わなかった。その時から今の形になっていたのかもしれません。届いた本の値段は自分で付けました。有り難かったです。

━━━最初は他の場所を考えていたとか?

  • そうなんです。神戸の花隈に古書会館があって、そこは兵庫県の古書組合の場所で古本屋の人たちの市が行われる場所なんですよ。その近くで始めようと思っていました。紹介された物件が一軒家で、自分の住まいと一緒にしてしまえば、少しは楽に始められるのでははないかと。ところが、とても古くて、改装費が家1軒建つほどかかる。これは現実的ではない。こんな博打はできない。そうしたら担当している仲介業者さんが、ここ(今の場所)があいていますけど、どうですかと。この辺は商業地域だから、ついで寄りもあるから、いいんちゃいますかと言わはって。スペースは9坪で、本屋さんとしては小さいですけど、自分がする分に関して十分かもしれないと。

━━━この周辺は、雑貨や服屋さんが多いところですよね。

  • 最初は「こんなお洒落なところで、ええ?」みたいな。「どうなるんやろ?」と思いました。でも逆に、自分が思っていなかったお客さんが来てくださるのは、本当にうれしいですね。

━━━客層は?

  • 幅広いです。それこそ小学生から、親子づれやカップル、あるいは90歳代の年配の方までいてはります。

━━━ほぼ年中無休となっていますね?

  • 勤めているときは、休みを数えながら働いていていた。いまそれがなくなった。休みたくなったときに休めばいいや、と思って「ほぼ」とつけている。

敷居は低く、間口は広く

━━━美術関係の本が多いですね。

  • みんながもってくれはる本なので何が入ってくるかは分かりません。絵本や雑誌、写真集など持ってきた人が思い入れがあるけど手放さざるを得なくなった本が集まっているように思います。アート関係やレトロっぽいのも、それで多いのかな。

━━━本以外の雑貨が多いけど、これは最初から狙っていたのですか。

  • 自然に増えていきました。雑貨をおいてもいいなと思ってはいたけど、仕入れてまでとは思っていなかったんです。本と一緒に「これもお願いします」とか、「これはいけますか」と言われることが多くて。

━━━ほとんど持ち込みですか?

  • そうです。中にはリサイクルショップみたいに、扇風機を持ってきて、「これいけますか」と。買わせてもらったこともあります。実際使わせてもらっています。

━━━引き取れないものもあるでしょ。

  • でも、「これ持って返ってください」というのが辛くて。だから何かしら値段を付けるなり、最悪こちらで引き取って何とかします。持込みの9割は買い取りしていますね。

━━━なぜか心地のよい空間ですね。レトロっぽいものが多いせいかな?

  • 一番最初に、店の屋号の前に、「ザックバランな」とつけたのは、自分は古本屋としてはぺーぺーで始めているし、特に専門がないんです。古本屋の仕組みはわかっているけど、組合にも入っていない。他の古本屋さんのようには何もできない。だったら逆に、自分の感覚に近い人や、古本屋といわれてもピンとこない人も、古本屋に抵抗なく来てもらいたくて、敷居を低くしようと思った。買い取りも、何でもOKにしようと思った。「うち、これしか引き取れないです」をなしにしようと。さっきみたいに、お子さんが来てくれても、ちょっとでもひっかかるものがあったらいいし、特別古本に興味のないカップルが来はったときでも、本には興味がないけど、僕はスニーカーに興味があるとか、私は雑貨やったら嬉しいと言われたら、それはそれで嬉しいなぁと思い置くようになりました。

━━━だから敷居は低く、間口は広くした?

  • そうです、そうです。もしここで少しでも古本に興味を持たれたら、次は昔からされている専門の古本屋さんに行ってくれはったらいいんちゃうかなと思う。

━━━「ザックバラン」というキャッチフレーズがいいですね。ゆるい感じでユニークな表現で。

  • 祖父の口癖だったんですよ。よく「ザックバランにいこう」とか言っていた。古本屋やから、本のことを知っていないと入れないとか、そんなんじゃなくて、みんな気軽に来てください、と。

作品に自信のない人や学生さんも気軽に展示

━━━展示スペースもありますが、これは最初から考えていた?

  • まったく考えていなかったです。最初に思っていたのは、何度も言いますが、昔ながらの古本屋さんだったんです。これも、ある取材の同行でこられたフリーのカメラマンの方が、ここを気に入って頻繁に来てくださるようになった。その方は、写真展なんかもされている方で「せっかくスペースがあるんやったら、ここで展示なんかもしたらどう?」と言って下さった。そしてすぐに、「コーナン(ホームセンター)行こう」と言われて、2人で木材買って、うしろの物置をふさいで小さな展示コーナーができたんです。いろんな方の知り合いが順番に展示をして下さるようになって、気づけば、「貸して下さい」という人も増えてきたという感じです。

━━━その他にもいろいろとイベントもやっておられる。

  • ライブがしたい、寄席をしたい。ゲーム大会をしたい、絵本講座をしたい、という人がいて。それでイベントも始まるようになりました。オープンして半年後くらいから、こんなふうになってきた。結局、自分の意志に関係なく、身をゆだねていたら、勝手にそうなったという感じです。

━━━展示会スケジュールもずっと詰まっている感じですね。

  • 作家さんによっては、本当に遠方からもお見えになる方もおられて、嬉しいです。ここで展示される方から言わせると、本格的なギャラリーだと使用料金が高く、敷居が高い。プロの人はまだしも、自分の作品はそこまでいっていないと思っている人や、学生さんだと敬遠される。そんな人たちも、気軽に利用しやすいし、客層が広いので、色々な感想がもらえるからやりやすいと言っていただいています。

━━━アマチュアの方でも気軽に利用できるように、展示スペースも敷居を低くしておられる。敷居は低く、ザックバラン、がポリシーですね。

  • それは自分の中で思っていました。敷居が低く、ということと、他力本願ということくらいを。

━━━これから、こんなふうにしていきたい、というのはありますか?

  • いつまでも他力本願ではいけないとは思っているんですね。結局、20代ではじめたので、年配の方も気にかけてくださったり、本を譲ってくださったり、お客さんを呼んでくださったりした。でも年齢をとっていくと、お返しをしないといけない立場になっていくと思うんですよ。そのときは例えば組合に入って、今度は自分が好きなものを落札するなり、どこから仕入れてくるなりして、半分くらいは、堂々と自分の好きなものも提供できるような店にはしたいです。

━━━そのときは、またどんなお店になっているか、とても楽しみです。今日は、お忙しい中、インタビューに応じていただき、本当にありがとうございました。

一番奥に展示スペースWeb.jpgこの奥に展示スペースがあります

エピローグ

やはり、ただ者ではありません

大連遼東百貨店Web.jpg購入した絵はがきの一枚取材終了後、「戦前の満州の絵はがきがあったりしますか?」と頓花さんに何気なく聞いたところ、間髪をいれずに「あ、ありますよ」と答えた彼女は、座っているデスクの後ろから絵はがきの束をつかんで渡してくれた。200枚ほどあるだろうか。見るとすべて満州のものだ。その量に驚きながら慌てて絵はがきを見続け、結局、3枚購入した。他にも医療機関で使っていたスタンプなど珍品の数々も所狭しとおかれており、さらながらレトロコレクションの宝庫である。やはり彼女は、ただ者ではない!