散歩3 of ダラーガ通信

吉野の桜

吉野の桜を見て死ね!

絢爛豪華な屏図絵の世界

 一人5500円(お弁当、いちご付き)のバスツアーに申し込み、迎えた2010年4月11日当日。天気予報は曇りのち雨。降水確率40%。神戸の自宅を出るときは小雨模様。片道約2時間半かけて吉野に到着したときは、奇跡的に晴れる。しかし駐車場のバスの多さは異常だ。いったい何台いるだろうか。これだけの数のバスを見たことがない。上空からみたら、きっと壮観だろう。

 歩き始めると、さっそく吉野山の千本桜が目に飛び込んでくる。絢爛豪華な屏図絵だ。桜色でも白色に近い桜色から濃い桜色までさまざまな濃淡で山々を彩っている。絶景とは、こんな光景のことかと納得しながら、金峯山寺(蔵王堂)へむけて歩くと、沿道は人、人、人‥。僕もこの中の一人だから文句をいうことはできない。
 沿道の両側には、土産物屋、柿の葉寿司、葛餅、葛湯、桜羊羹、わらじ、草餅、珍しい陀羅尼助(だらにすけ)などの吉野名物をはじめ、さまざまな物を売るお店や、お食事処、旅館などが建ち並び、大変な賑わいようだ。

修験道の総本山らしい祭りに出会う

 黒門を過ぎ、蔵王堂(金峯山寺)が見えるところまで来たら、何やら法螺貝の音が響いてくる。どうやら金峯山寺のお祭り(花供懺法会(はなくせんぽうえ))らしく、大名籠を掲げた一向が行列している。石段を上がってみると先頭集団らしき姿が‥。鬼の姿、稚児、山伏、僧侶などの行列が蔵王堂へ向けて続く。
 もうすっかり空腹だ。蔵王堂の横へと周り、日陰の石段に腰を下ろして、旅行代理店から手渡された2段重ねのお弁当を広げる。色とりどりで鮮やか。食べてみると旨い。お堂で吹かれている法螺貝の音を聞きながらのお弁当というのも、なかなか得難い体験。
 資料によれば、蔵王堂は、役小角が創設したお寺で、修験道の総本山らしい。また、蔵王堂は東大寺の大仏殿に次ぐ大きさらしい。実際に石段の下から見上げればかなりの迫力だ。

四方360度、山桜のパノラマ

 食後、再び見晴らしの良い場所を求めて沿道を歩く。30年ほど前にきたときには、これほど多くのお店はなかったと思う。途中、現地の観光バスの案内人に紹介してもらった場所へたどり着くと、まさに四方360度、山桜のパノラマ。これは絶景だ。現場の人に聞くのが一番確実だね。
 すでに何組もの人たちがシートを敷いて宴会をしている。ため息をつきながら、景色を眺め、写真のシャッターを切る。近くにある桜の樹木の向こう広がる山桜は雲のように幾重にも重なり連なっている。その間に寺院や旅館などが立っている風情も見事なものだ。
 「ナポリを見て死ね」という言葉があるが、日本人なら「吉野の桜を見て死ね」と言いたいところだ。

吉水神社は、義経、後醍醐天皇など、歴史上人物のオンパレード

 しばし感嘆した後、吉水神社をめざして歩く。メインの沿道から少し下った所に吉水神社がある。30年前もここを訪れた記憶がある。庭に入ると、「一目千本」と書かれた所に大勢の人が集まっている。確かにここからの眺望は素晴らしい。左右の画面いっぱいに広々と山桜が匂うように揺れている。
 檜皮葺きの小さな書院造りの建物に入ると、部屋の一室で、北朝鮮拉致問題で活躍されている顔の横田さんが、マイクを握って20名ほどの聴衆を相手に話しておられた。聞きとりにくかったが、内容は想像はできる。
 一通り屋敷の中を回ってみる。義経潜居の間、後醍醐天皇王座、弁慶の七つ道具などが次々に現れる。
 役小角、源義経、静御前、弁慶、後醍醐天皇、楠正成、豊臣秀吉‥。こうした日本史の教科書に出てくる人物の名前の多さに頭が混乱してくる。一人でも十分お値打ちなのに、この大盤振る舞いは何なんだ。

何もない白い空間が息づく橿原神宮

 帰りのバスの出発時間が近づいてきた。葛餅などの土産物を買いながら、集合場所へと急ぐ。
 出発したバスは、神話上の人物であり、初代天皇とされる神武天皇が祀られている橿原神社に寄る。明治23年創建の橿原神宮内へ玉砂利を踏みしめながら歩くが、かなり歩きにくい。鳥居は高くでかい敷地内は、何もない白い空間が広がっている。これが神道らしいといえば、いえる。敷地内にある池も広く、池の周りには桜が咲いている。あたりは静寂が支配、池までなにやら厳かな雰囲気をたたえているから不思議だ。
 これで今日のイベントは修了。バスへ一路、三宮を目指して走り出す。急に空が曇り、雨が降り始めた。どうやら今日の天気は、僕たちに味方してくれたらしい。

桜1.jpg一目千本の桜。文句なしの絶景です
桜2.jpg一目千本の桜。文句なしの絶景ですダラスケ.jpg一目千本の桜。文句なしの絶景です
行列1.jpg僧侶や山伏たちの行列ホラ貝.jpgほら貝も吹いてくれました
行列2.jpg東大寺大仏殿に次ぐ大きさを誇る蔵王堂
吉水神社.jpg世界遺産の吉水神社へ後醍醐天皇.jpg南朝の指揮を執った後醍醐天皇の部屋
義経の甲冑.jpg義経の甲冑。小柄だったようだ弁慶の七つ道具.jpg弁慶の七つ道具。本物だよ
桜3.jpg何度見ても美しい
橿原神宮.jpg橿原神宮。何もない空間が神道っぽい池の桜.jpg池にも厳かな雰囲気が漂う

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  少年刑務所ツアー

奈良の近代建築を巡る不思議な旅

 4月10日(土)、博学な北夙川不可止氏(もちろんペンネームだが)の案内による奈良市内の近代建築を中心に見て回るツアーに参加した。最初に見学したのが、奈良少年刑務所だったので、途中から名称が「少年刑務所ツアー」と変わってしまった。
 予定では、以下のようなハードスケジュール。
 奈良少年刑務所→北山十八間戸→奈良市水道局計量器室→東大寺転害門(てがいもん)→フトルミン工場跡→入江泰吉邸→国際奈良学セミナーハウス(吉城園)→寧楽美術館→旧奈良警察鍋屋連絡所(旧北魚屋町交番所)→旧奈良女子高等師範学校(現 奈良女子大学)→日本聖公会奈良基督教会→南都銀行本店→奈良ホテル
 この中で、私が興味をもった2つの建築物を紹介しよう。

奈良少年刑務所

 赤煉瓦を使ったロマネスク様式の建物。ドームがなんとも特徴的。監獄の暗いイメージを和らげるために、こんな外観にしたのではないかと推測する。設計したのは、ジャズピアニスト・山下洋輔の祖父だということは、知る人ぞ知る事実である。
 かつて、明治時代に作られた5大監獄の一つであり、現存する唯一ものらしい。しかも、今なお現役で利用されている。周囲には他に建物もなく、この建物だけが、広大な土地を独り占めしている感じ。レンガ塀に沿って桜の木が植わっており、今がちょうど満開。刑務所の受刑者たちにも、この桜は見えているのだろうか?
 ロマネスク様式の建物は、関西では、ヴォリーズが設計した「日本キリスト教団 大阪教会」(大阪市)が有名だ。

日本聖公会奈良基督教会

 思わぬ収穫だった。この道は何度も通り、以前から興味があったが、偶然に、内部にはいって拝見することができた。
 和風瓦葺きの屋根に十字架という不思議な組み合わせ。和風のキリスト教会なるものに初めてはいる。平面構成は、明快な教会形式でありながら、周囲は和風。さらに奈良県唯一のパイプオルガンもある。
 それにしても貴重なものを拝見することができました。資料によれば、宮大工、大木吉太郎の設計によるものだが、彼は、桃山基督教会(伏見桃山)も建ている。
 しかしなぜ和風基督教会がこれほど少ないのか。実は、外国人宣教師は和風教会堂が望ましいと考えたが、ほとんどの日本人聖職者は、和風に反対したらしい。なぜ反対したんだろう。今度はそこに興味が移ってきた。
 当時の人々は、磔になって死んだイエス像に出会い、イエスの生涯を知る。彼らが伝統的な仏教とはとはまったく異質なキリスト教を受け入れるには、異質な西洋風の教会建築の方が、有り難みが増したのではなかろうか。これはあくまでも私の推論に過ぎないが‥。

写真展を見て語る会

 午後4時から、町屋ゲストハウス「ならまち」で、写真展を見て語る会「知られざる名建築 旧奈良監獄・奈良少年刑務所の美」が開催される。
 スライド上映により刑務所の内部の様子が次々に映し出される。スクリーンの位置が低かったこと、前列中央に座った人物が邪魔になったことで、多くの人が見にくかった。この点は少し残念だった。
 語る会では、奈良少年刑務所の保存のために、どんな提案がいいのか、討議され、何人かが発言した。
 私も少し考えた。やはり刑務所関連の施設にすべきだろう。まったく関係ない土産屋なんかにしたら、別にここでやる意味、ないものね。
 私が考えたのは、刑務所博物館だ。さっそくネットで調べてみると、すでに多くの前例がある。「博物館 網走監獄」をはじめ、旧ソ連時代の囚人生活を体験できる「パタレイ刑務所博物舘」(エストニア)、「ロッペン島刑務所」(南アフリカ)、「アデレード刑務所」(オーストラリア)など、あるわ、あるわ。中にはおぞましい雰囲気が充満し、「誰がこんなもの見たいねん?」てな感じのものもあるが、刑務所の意義をきちんと伝えるものにすれば、社会的意義はある。
 例えば、アル・カポネが収容されていたことでも有名な「アルカトラズ連邦刑務所」(アメリカ)は1963年に閉鎖。現在はゴールデンゲート国立リクリエーション地域の一部になっており、フェリーにのって島に上陸し、見学できるようになっている。刑務所を通じて、社会の負の部分を照らすことで、歴史を多角的に学ぶのもいいと思うな。

奈良少年刑務所.jpgロマネスク様式の建物。威圧感より可愛い感じがする
DSCN4722.jpg門から中には入れません刑務所の桜.jpg刑務所周りの塀沿いに桜
転害門.jpg奈良時代当時のままの転害門フルミン工場跡地.jpgフルミン工場跡地はいまカフェに
昭和JPG.jpg昭和モダンを感じさせる奈良女子大学2.jpg奈良女子大学の正門

奈良女子大学1.jpg奈良女子大学の旧本館。ハーフティンバー様式の木造建築
奈良基督教会1.jpg和風の屋根に十字架奈良基督教会3.jpg和洋折衷の不思議な空間
奈良基督教会2.jpg内部は、礼拝堂の様式を踏襲
パイプオルガン.jpg木製のパイプオルガンが豪華
語る会.jpg語る会の様子画廊.jpg画廊で写真展も開催

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  お水取り

古代人に想いを馳せる。
二月堂の舞台装置にも感心!

二月堂の正面舞台に立つ

 東大寺二月堂の「お水取り」(正式名称は、二月堂修二会)。テレビニュースでお松明の様子が映るたびに、一度、目の当たりにしたいという気持ちが満水状態に。そこで3月6日(土)、午前小雨、午後曇りの予報に迷いながらも、意を決して出かける。
 奈良ホテル、興福寺の国宝博舘、東大寺大仏殿、三月堂と巡って、いよいよ隣の二月堂へ。
 小高い丘陵地の上に佇む二月堂を見上げながら、その堂々たる風格にため息をつく。造りが清水寺に似て、両寺院ともに床下に組んだ柱で建物を支える懸造りだ。
 右手の階段を上って舞台に立つと、東大寺の敷地はもちろん、その向こうに奈良市街地から、遙か生駒山まで見渡せる。西側正面の舞台の欄干にもたれて眺めていると、貴族にでもなって気分だ。すでに多くの見物客が押しかけ、二月堂の中に場所取りをしている人もいれば、線香の煙を手で頭に振りかけている人もいる。お寺の白い布を垂らした奥から修行僧の読経の声がかすかに聞こえてきた。
 登ってきた時とは反対側の石段の廊下は屋根が架かっている。ここから燃えた松明が本堂に運ばれるに違いない。その階段を降りていくと、長い竹が斜めに置かれていた。この松明を使うのだろうか。

 開始時刻の7時まで2時間近くもある。周辺はまだ明るい。といって拝観は午後5時にどこも終わっている。広い東大寺を動き回るのも大変だ。持参の本や資料を読みながら場所を決めて待つことにする。
 3月の初旬である。天気予報通りの曇り空であるが、ときどきポツリポツリと降ってきて、ひやりとさせる。時刻が経つにつれて山の冷気が足下からじわりと広がってきた。その間にも、人々がどんどん増え、舞台の下に広がる土山、石畳、階段と所かまわず見物場所を確保している。混雑に備えて奈良県警の警察官も立っていた。

夜空を焦がす炎、舞台を駆ける炎

 空も周辺も少しずつ暗さを増し、安全確保のための電灯も消えた。いよいよ始まる。みんな固唾を呑んで正面を見上げる。左の屋根付き廊下の下方から物音が聞こえ、小さな火が見えたかと思うと、その火はたちまち大きくなり廊下の屋根まで届きそうな炎となって、暗闇に赤々と燃えさかる。一瞬たりともじっとしてない。ゆらゆらと斜め上へと生き物のように動きながら屋根裏を燃やしそうになめていく。

 やがて松明が舞台の左端に現れると、見物人たちから歓声があがり、拍手が起きる。勢いよく燃える松明の炎は、練行僧を案内する童子(といっても大人である。東大寺の職員が役割を担う)によって、闇の手前に大きく押し出され、風車のように炎が回転すると、炎から火の粉が滝のように見物人たちの頭の上に落下する。
 ひとしきり火の粉を振りまくと童子は、松明を担いで舞台の反対端まで移動させ、そこで再び火の粉を撒く。その時は、次の新しい松明が先度の端に現れるのだった。その間、ときおり鐘の音が効果的に鳴り、余韻を響かせる。」
 こうして11本の松明が次々に現れては、奈良の夜空をじりじりと焦がし、滝のように火の粉を浴びせるのだった。辺りはもうもうと煙が立ちこめ、雲のように風になびいていた。

 お松明の様子は、敷地内のどこからから見ることができる。つまり二月堂は、お水取りのために創られた特別の建造物であり、見事なまでの舞台であることがよくわかる。
 お水取りは奈良時代から連綿と一度も休むことなく繰り広げられてきた儀式であり、今年で1289回。ということは、1289年間、一度も滞ることなく続けられてきた途方もない行事なのだ。11名の練行僧たちは、3月1日から14日まで、十一面観音にひたすらお詫びをし、あわせて天下太平・五穀成熟・万民豊楽を祈る法会ということだ。
 人々が見守るお松明は、炎の儀式であり、祈りであり、演舞でもある。古代の人も同じように、この炎をみてきっと心を振るわせたに違いない。そんな想像を巡らせながら帰路についた。

下から見上げる.jpg懸崖造りで、どこから見える構造になっている
廊下.jpg右手に屋根つきの階段廊下。ここを松明が通る舞台の上.jpg舞台の上には早くから見物客が

お松明1.jpg屋根が燃えるように移動する
お松明3.jpg「おおっ」と歓声が上がる
お松明2.jpg舞台の左から右へ炎が走るお松明4.jpg風車のよう炎が回転
終了.jpg終了。大勢の人が満足そうな様子でした