映画の海

キャタピラー

主演2人の熱演で支えられた、痛〜い反戦映画

★★★★

 1940年、日中戦争に駆り出された黒川久蔵は、4年後に、頭に火傷を負い四肢は失われ、耳もほとんど聴こえない状態になって村に帰還した。軍神としてその姿を讃えながらも、厄介払いのように親戚たちは妻・シゲ子に全ての世話を押し付ける。旺盛な食欲・性欲・名誉欲を示す久蔵に献身的に仕えるシゲ子だったが、炎に焼かれる屋敷内で中国娘を強姦・虐殺した記憶に苛まれる久蔵は次第にインポテンツになってゆく。それとともに、暴力によって夫に支配されていたシゲ子の憎悪が頭をもたげるのであった。

 江戸川乱歩の小説「芋虫」をモチーフにした、若松孝二監督の作品。若松孝二といえば、ピンク映画の時代から、強烈な反体制思想、アナーキーで過激な描写で知られているが、実は若松作品を見るのはこれが初めて(プロデュース作品の「水のないプール」は観たが‥)。また、主演の寺島しのぶが、第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)を受賞していることもあり、期待をもって観る。

 一言でいえば、「痛い映画」だ。戦争犠牲者である夫と妻との心と肉体の葛藤を中心に描かれているが、極限状態でのシーンが続くため、観ているこちらの心もヒリヒリと痛む。テーマは反戦。明快である。戦争がもたらす残酷さと当時の欺瞞的社会への怒りをストレートにぶつけてくる。

 ピンク映画さながらの低予算でつくられたものとみえ、戦火のシーンも、前景の炎と背景のシーンを別撮りしているし、撮影場所も限られた数カ所。出演者も少なければ、スタッフも少ない。撮影期間はわずか12日だったらしい。
 にもかかわらず、戦争当時に強制されたモラルや、夫婦間の心の葛藤がびしびしと伝わってくる。これはひとえに、主演の2人、寺島しのぶ、大西信満の熱演によるものだ。寺島しのぶは、よくこの役を引き受けたものだと、その勇気に感心したし、大西信満も、芋虫状態で頭を打ち付けたり、庭や外をはい回る迫真の演技も凄い。
 この映画を観ている最中、ずっと気かがりだったのが、四肢をもがれた身体のことだった。まるで本物のようにしか見えない。いったいどうして撮影しているのだろうか。CG加工でもしているのだろうか。あとで、その仕掛けは分かったが、ここでは明かさない。それほどに良くできている。そしてエンディングに流れる元ちとせの歌も、反戦歌として秀逸である。

キャタピラー.jpg2010年8月/監督:若松孝二/主演:寺島しのぶ、大西信満/受賞:寺島しのぶが第60回ベルリン国際映画祭最優秀女優賞(銀熊賞)

おとうと

駄目な弟でも、切れない家族の絆を温かく描く

★★★★

 安心して楽しめる山田洋次監督作品。なぜ安心できるかといえば、家族への信頼感が核となり、決して失われることがないからだ。
 家族は、山田洋次が終始一貫して追求してきたテーマである。どんなに時代や社会が変わり、辛い状況となろうとも、家族の絆がしっかりしていれば、希望や笑いが生まれるのではないか、といった期待感がどの作品からも感じ取ることができる。
 寅さんシリーズはもちろん、高度成長の時代から取り残される家族を描いた『家族』(1970年)と『故郷』(1972年)などもその代表例だ。とくに『家族』は、高度成長時代の象徴ともいえる万博の年の日本を舞台に、長崎県の小さな村から北海道の開拓村まで列車で移動する話であり、私は日本屈指のロードムービーだと思っている。
 寅さんシリーズは「放蕩息子の帰還」型の話であり、安定した家族の中に、放蕩息子が帰ってきて騒ぎを起こす。それに対して、『家族』と『故郷』は、家族の危機克服型の話である。今回の『おとうと』は前者の「放蕩息子の帰還」型である。

 早くに夫を亡くした吟子(吉永小百合)は、東京の私鉄沿線の一角で、小さな薬局を女手一つで切り盛りしながら娘の小春(蒼井優)を育て、義母の絹代(加藤治子)と3人で暮らしていた。小春とエリート医師の結婚が決まり、一家は幸せの絶頂にあった。そして結婚式当日。和やかに始まった披露宴に、にわかに暗雲が—吟子の夫の13回忌で大暴れしたのを最後に、音信不通になっていた吟子の弟・鉄郎(笑福亭鶴瓶)が紋付き袴で現れたのだ。

 売れない役者で生活に困っている鉄郎は、お酒を飲むと失敗を繰り返す典型的な駄目男タイプ。そんな弟をかばっていた吟子も、不誠実な鉄郎と縁を切ったが、鉄郎が救急車で運ばれ、余命が長くないと知らされ、大阪へ駆けつける。最終部分で、鉄郎と吟子が腕にテープを巻いて寝るシーンがあるが、このテープこそ家族の絆の象徴なのだろう。
 ガンと糖尿病に犯されて死期に近づく鉄郎だが、鉄郎役の釣瓶の顔が全然やつれていない点がリアリティ欠如となり、とても残念。デ・ニーロなら15kgほど平気で痩せるだろう。

 ところでこの作品を通じて終末期の哲郎を迎えて介護する民間の施設の存在に興味を持つ。一度、調べてみよう。

おとうと.jpg2010年/監督:山田洋次/出演:吉永小百合、笑福亭鶴瓶、蒼井優、加藤治子

空気人形

空気人形と空虚人間。
その切なさと愛しさを噛みしめる
しかしペ・ドゥナは可愛い!

★★★★

 もし、性処理のための空気人形が人間の心をもったら‥。そんなSFの世界を描いた作品だ。普通なら汚くなる題材を、よくこれほど透明感あふれたきれいな映像に仕上げたものだと感心してしまう。主人公の空気人形役の、ペ・ドゥナの可愛さは特筆ものであり、とくに瞳の大きさに驚く。これほど目の大きな女性は滅多にいない。
 購入した空気人形と暮らす男、年齢をとる恐怖から逃れたがっている受付嬢、誰かに構ってもらいたがっている老女、酸素ボンベを繋いでいる老人、やたらと物を食いまくる過食症の女、毎朝卵かけを食べるレンタルビデオ店の男など、登場人物は、みんな不器用で孤独な人ばかりだ。心に空虚を抱えている人間といえよう。
 空気人形は、空気を入れられないと、役に立たないが、空虚さを抱えている人間も、必死に空虚さを埋めようともがきながらかろうじて生きている。
 ファミリーレストラン勤務の男は、上司から怒られる。「いつ辞めてもいいんだよ。代わりはいくらでもいるんだから」
 空気人形がアルバイト先の男に恋をする。バイクに2人乗りでデートをする。だが、押入れの名からかかつての恋人の写真がでてきた。それは自分そっくりの女性だった。「私は代用品なんだね」と寂しく呟く。
 人間も空気人形も一緒だ。代用品であることの哀しさ、切なさが伝わってくる。でも、誰かの役に立っているかもしれないと思うと、生きていける。そんな応援歌でもある。空気人形がいう。「心をもつと苦しい。でも、楽しいこともあった」
 星新一のショートショートを少し長くしたようなシンプルな話だが、それがかえって良かったように思う。

空気人形.jpg2010年/監督:是枝裕和/原作:業田良家/主演:ペ・ドゥナ、ARATA、板尾創路、余貴美子、寺島進、オダギリジョー

スカイ・クロラ

これまで見たことのない飛行シーンに幻惑される

★★★★

 森博嗣氏原作も初めてなら、押井守監督の作品も初めてだが、期待以上の面白さだった。
 ストーリーは、平和の大切さを確認させるために行う戦争の請負会社で働く若者たちの姿を描いている。若者たちというのは、遺伝子制御剤の新薬開発途中で生まれたキルドルたちで、戦死しないかぎり年を取らないという連中だ。その悲しみも含めて描いている。
 このストーリー設定も面白いが、それ以上に楽しめたのが、アニメーション映像だった。人物や犬などは、平板で淡い感じで描かれているが、飛行機や建物、空や海、断崖などの風景はリアルそのもの。
 驚いたのは、プロペラが回るシーンで、アニメーションとは思えないほどの出来映え。さらに飛行シーンも素晴らしく、まるで自分が操縦士になったかのようにアクロバチックな視線移動により、目眩が起きるほどの魅力を讃えている。こんな映像を私は見たことがない。

スカイ・クロラ.jpg2008年/監督:押井守/原作:森博嗣

k-20 怪人二十面相・伝

何も考えずに、それなりに楽しめる映画

★★★

 ストーリーは、江戸川乱歩原作のものではなく、映画オリジナル。第二次世界大戦が回避された架空の昭和24年。帝都・東京では怪人二十面相が富裕層を狙う犯罪を繰り返していた。その二十面相は今度は革命的な新エネルギー機関・テスラ装置を奪うと大胆に宣言したことから、警視庁の浪越警部は名探偵・明智小五郎に捜査を依頼した。一方、サーカス団で働く軽業師・遠藤平吉はふとしたことから怪人二十面相にだまされ、彼の替え玉に仕立てられたために二十面相として軍憲(この世界における警察)から追われる羽目になってしまう。平吉は疑いを晴らすために、自らも二十面相になり、本物の二十面相と対決することになる。
 荒唐無稽といえばそれまでだが、それなりに楽しめた。下手にリアルな映画にせずに、冒険活劇風に描いている。同じ怪盗もの小説を映画にしたものに、「ルパン」があるが、こちらは、恋愛や親子関係など詳しく描いていたのとは対称的である。

 最初の部分は少し間伸びするが、途中からテンポもよくなり、映像的にも面白くなる。例えば、怪人二十面相と戦うための力を身につける極遺書があり、その第一は、地図に1本の直線を描き、そのまま走り抜くこと。たとえ途中に建物など、遮断物があってもそれを超えること。これを実践するシーンがいい。ちょっと、「007のカジノロワイヤル」の冒頭シーンや、リュック・ベッソンが総指揮をとった「ヤマカシ」を彷彿とさせる。どうやら、これも「パルクール」らしい(「パルクール」については、こちら)。ちなみに極意の第二は、変装術である。

 仕掛けも面白い。金城武がつかっていた道具がそれだ。ボタンを押せば、尖端が鈎になっているコードが伸びてゆき、再びボタンを押すと、コードが巻き取られ、身体が浮くという仕掛けだが、実際にこんな道具があったらと思わせるところが面白い。
 ストーリーは、ネタバレになるので触れないが、たまには何も考えずに楽しめる映画を観るのもいいものだ。

怪人二十面相・伝.jpg2008年/東宝/監督:佐藤嗣麻子/出演:金城武、松たか子、國 村隼、高島礼子、本郷奏多、今井悠貴、益岡徹、鹿賀丈史、仲村トオル

クワイエットルームにようこそ

女性専用精神病棟で繰り広げられる、危うさの綱渡り

★★★★

 佐倉明日香は28歳のフリーライター。ようやく手にした署名コラムの執筆は行き詰まり、同棲相手ともすれ違いが続く微妙な状態。そんなある日、明日香は気がついたら、真っ白な部屋のベッドに拘束されていた。やってきたナースに「アルコールと睡眠薬の過剰摂取により、丸2日間昏睡状態だった」と説明されても、記憶があちこち欠如した明日香は戸惑うばかり。だが非日常的な空間で見知らぬ人々と出会ううち、明日香の中で何かが変わり始める…。

 監督の松尾スズキは舞台の脚本・演出家として有名だ。その彼が小説を書き、自ら監督をした作品である。
 舞台出身監督がつくる映画の特徴は、出演者が過剰に喋り、演技する点にある。それは仕方ない面もある。舞台では、映画のようにクローズアップで僅かな表情の変化を捉えたり、出演者の気分を他の映像で置き換えることができないのだから。だから過剰に喋る、動く。それも限定的な空間の中で。この作品も極めて演劇的である。舞台は、ほぼ女性専用の精神病棟の中である。その演劇手法が見事にはまっており、とても面白い。

 真っ白な部屋のベッドに拘束されていた理由を主人公が探すわけだが、観客もまた同じ立場で、「この拘束は明らかに不当ではないか」と思いながら理由を探す。いわば推理小説的楽しみを味わいながら、精神を病んだ女性達のさまざまな生態に出会ったり、主人公が直工面した苦悩などを知ることになる。

 主人公・明日香役の内田有紀の体当たり的演技に感心したり、女性患者の大竹しのぶのキレ方のすさまじさに驚いたりもした。人間の精神のもろさ、危うさを感じさせるブラックユーモアたっぷりの作品である。

クワイエット.jpg2007年/監督;松尾スズキ/出演:内田有紀、りょう、宮藤官九郎、蒼井優、大竹しのぶ、妻夫木聡

かもめ食堂

人と比較しない女性の生き方を示す

★★★

 大好きな小林聡美が主演であること。そしてアキ・カウリスマキの映画の舞台であるフィンランドのヘルシンキが舞台であること。この2点から興味をもって観る。
 原作は群ようこ。監督も女性監督。だから、女性による女性のための女性の映画。30代、40代の未婚女性たちの自分探しの映画だが、その中で、主人公だけが、しっかり自分の進むべき道がわかっており、余裕を持ってかもめ食堂を運営している。彼女のスタンスは、「嫌なことをしない」。そして好きなことをする。人と比較する生き方とは別の、生き方を鮮やかに提示。わかりやすくて、すっきりした後味のいい映画である。
 でも話しも映像にも見るもものをうならせるような点がなかったから星3つ。

かもめ食堂.jpg2006年/監督:荻原直子/出演:小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ

イノセンス

想像力を刺激する映像の力をまじまじと実感!

★★★★

 これほど理屈っぽい映画は初めてだ。聖書、論語、詩人の言葉を引用したり、格言めいたことを吐かせたり、宇宙論、身体論、意識論などを登場人物が話しだしたりする。たぶん、この作品を一度見ただけで理解することはできないだろう。
 こうした難点がありながらも、映像にはすさまじいまでの力を感じさせる。見る者の想像力を刺激してやまない。
 この映画を観て、ずっと思い浮かべていたのは、リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』である。詳しく比較することはできないが、かなり近い。混雑した香港の街並みをブレンドしたような独自の未来風景の描き方においても似ていると思う。
 今後、SF映画の世界を理解しようと思ったら、科学的知識が必要になるだろう。すこし足を踏み入れてみるか。

イノセンス.jpg2004年/東宝/監督:押井守/原作:士郎正宗

GO

「在日」の問題を、ユーモアとスピード感で乗り越えた傑作

★★★★★

 神戸で撮影された作品としても有名な「GO」を、遅まきながら観た。ただし内容的な予備知識としては、在日の主人公を扱っているということぐらいしか知らずに観た。

 在日韓国人3世の杉原(窪塚洋介)は、日本の普通高校に通う3年生。あだ名はクルパー。ハワイ旅行をきっかけに朝鮮から韓国に国籍を変えた父親・秀吉(山崎努)に叩き込まれたボクシングで、喧嘩や悪さに明け暮れる日々を送っている中、一人の日本人女性・桜井(柴咲コウ)に出会い、恋をする。
 在日韓国人3世の高校生が、恋に友情に悩みながらもアイデンティティに目覚めていく姿を活写した青春ドラマである。

 いやあ、面白かった。とてもよく出来た作品である。もっと早く観れば良かったと後悔したくらいだ。原作、脚本、演出、役者ともに素晴らしい。「在日」という重いテーマを扱いながらも、ユーモア感覚とスピード感、そして現状を打開する突破力とエネルギーに溢れている。本作が2001年度のキネ旬1位、日本アカデミー賞の升を総なめしたのも納得できる。

 本作でスピーディな表現を可能にした手法がジャンプ・カットの多用であり、実に効果的に使われていた。ちなみに、ジャン・リュック・ゴダールが「勝手にしやがれ」で初めて使ったと言われるジャンプ・カットだが、最も成功した例が、ガイ・リッチーの大ヒット作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」であろう。

 冒頭近くで、主人公が地下鉄のホームに降りて、電車が近づくまで線路の上に立ち続けるというグレート・チキン・レースを競う印象的なシーンがある。これは市営地下鉄上沢駅で撮影されたものらしい。コメンタリーで行定監督が言う。「どこの地下鉄に申し込んでも、断られましてね」。そうかも知れない。こんな真似をされたら困ると、市民から苦情が来るのを恐れたためだろう。そうしたリスクがあるにもかかわらず、OGサインをだした神戸市交通局の勇気とそれを橋渡しした神戸フィルムオフィスを讃えたい。

 もう一つ印象的だったのが、在日朝鮮の子供たちが通う民族学校での授業を描いていたことだった。校庭での行進の練習や、ホームルームに当る総括の授業で、日本語を使った生徒を先生が殴るシーンなど、実に興味深い。原作者の金城氏自身が、「こんなシーン、よく撮れましたね」と逆に感心していた。つまり撮影に反対されたり妨害に会うのではないかと危惧していたのだ。

 在日3世の杉原は、北朝鮮に帰国した弟が亡くなってしょげ返る2世の父親に向かって吠える。「だせ〜。てめえらの世代でカタをつけよろよ」。杉原の気持ちもわかるが、本来、カタをつけるべきは、日本人および日本政府だったのだ。
 この映画で切ないシーンは、民族差別を超えたはずの杉原が、好きな女の子の前で在日であること、そして本名を名乗れずにつまづくとろころだ。でも、若い二人はお互いの本音をぶつけ合い、そして乗り越えようとする。杉原はいう。「オレはおれなんだ」「国境線を消したい」「広い世界にいきたい」と。国境線を消すことはできなくても、軽々と超えることはできるはずだ。

GO.jpg2001年/東映/監督:行定勲/原作:金城一紀/脚本:宮藤官九郎/出演:窪塚洋介、柴咲コウ、山崎努、大竹しのぶ、山本太郎/受賞:第75回キネマ旬報日本映画ベスト・テン第1位、第25回日本アカデミー賞最優秀監督賞、主演男優賞(窪塚洋介)ほか各賞を受賞。

二十世紀少年読本

デビュー作のような熱気や遊び心が不足

★★

 デビュー作「夢のように眠りたい」で、無声映画の手法を取り入れ、「昭和」を題材にしたノスタルジーあふれる作品を発表した林海象。その斬新さに興味をもち、かつ大いなる期待を抱いてこの作品を観る。

 サーカスで暮らす兄弟を中心に話は展開する。足を痛めた兄はサーカスを離れ、香具師の世界へ。サーカスも香具師も市民社会の周辺に生きるマージナルマンたちであり、彼らの世界への共感性によって、この映画は成立している。

 だが、う〜ん、相変わらずの低予算はいいとして、デビュー作品のような熱気も遊び心も感じられず、ぺらぺらの紙芝居のような映像になかなか感情移入できなかったのは、残念!

二十世紀少年読本.jpg1989年/監督:林海象/出演:三上博史、佳村萌

夢見るように眠りたい

モノクロ無声映画へのオマージュ

★★★★

 林海象は1957年生まれだから、もちろん無声映画やモノクロ映画で育ったわけではない。だが映画にのめり込んだ彼は、映画の源流へと遡り、モノクロ無声映画に、映画の純粋な美学を見つけたに違い。そして、27歳のときに撮ったのが、この作品だ。

 8mm映画は撮っていたらしいのが、劇場用映画はまったくの初めて。でもマニアックまでの「好き」が高じると、こんな映画まで撮れてしまうという見本。といっても、撮影、美術などの脇のスタッフはプロの職人が傾けているから大丈夫だったとも言える。この流れは、北野武にも当てはまるかも知れない。

 モノクロ無声映画の形式で描かれたのは、昭和初期。江戸川乱歩によって描かれた明智小五郎、小林少年が活躍する探偵小説の世界だ。この映画では、探偵の名前は、魚塚仁。ウォッカとジンからとったもので、どこまでも洒落のめしている。
 いまは少なくなった昭和初期の建物を探して、そこを舞台に撮っているが、驚いたのは、浅草十二階・凌雲閣らしものが出てきたときだ。確か、この建物は関東大震災のときに崩壊したはずだ。調べたら、浅草十二階を模した浅草仁丹塔らしい。昭和7年に建てられ、昭和61年に老朽化のために解体された。関西に住んでいた私は、残念ながら仁丹塔の存在自体、知らなかった。広告だけのための塔なので、内部は空洞で、鉄の階段だけがあった。映画ではこの階段を上るシーンがある。

 映画は、劇中劇の構造をとっていて、探偵ものの中に、チャンバラ映画が組み込まれている。チャンバラ映画こそ、無声映画の真骨頂というべきか。台詞なんかなくても、動きだけで楽しめる活劇の基本形である。アメリカなら西部劇になるだろう。
 いずれにしても、探偵、チャンバラ、昭和初期の風景、モノクロ無声映画と、ノスタルジー満載のユニークな映画で、存分に楽しめた。

夢みるように眠りたい.jpg1986年/監督:林海象/出演:佳村萌、佐野史郎、あがた森魚