映画の海

シャーロックホームズ

活動的でコミカルなホームズ像が新鮮!

★★★★

 あまり期待せずに観たが、これが何とも痛快、面白い。さすがガイ・リッチー監督である。ホームズ役のロバート・ダウニー・Jrは、初めて観た役者(「アイアンマン」やテレビドラマの「アリー・マイ・ラブ」などに出ているらしいが、僕は観たことはない)だが、この役者がまずいい。そしてワトソン役のジュード・ロウも、黒魔術を操るブラックウッド卿役のマーク・ストロング(この役者も初めて観る)も良かった。

 シャーロックホームズといえば、グラナダテレビ版のジェレミー・ブレットのホームズをどうしても思い浮かべてしまう。数年前ときどきNHKテレビで放映していたからだ。
 つねに沈着冷静、鋭い観察眼で事件を解決する従来のホームズとは違って、今回のホームズは、鋭い観察眼と豊富な知識から導く推理力はもちろんだが、化学実験マニア、バイオリンの名手、ボクシングや東洋武術・バリツの使い手といったホームズの要素を盛り込みながら、アナーキーなまでに活動的でコミカルなホームズ像を造り出している。これがとても新鮮だった。

 ガイ・リッチーらしく、スピーディーで、スタイリッシュな映像で、ぐいぐい引き込んでいく。そのセンスと力業が素晴らしい。観て損のない作品だ。
 ちなみにホームズ最大のライバル、モリアーティ教授が、手の部分だけ出てくるシーンがあった。これは続編ができるなと思っていたら、この予想は見事に的中。2011年12月に続編が全米公開される予定らしい。

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インビクタス/負けざる者たち

ラグビーの試合よりも、マンデラの言葉の重みに胸が熱くなる

★★★★

 前作「グラン・トリノ」が最高傑作だったために期待を膨らませ過ぎたのが悪かったのかもしれない。だからか、前作のような衝撃的感動を受けることはなかった。だが「インビクタス」もよい作品であることには間違いない。
 何と言っても、27年間獄中生活をおくっていたマンデラ大統領が、「この国の未来のために、復讐はしない。すべてを許すことから始める」と語る、その言葉の重みを考えると、思わず胸が熱くなる。

 ラグビーの試合のシーンはどうして撮影したのだろうか。やっぱり、5万人とか8万人とかを集めたんだろうね。マット・デイモンの、ラグビー選手の体つきになっていた。鍛え方が半端じゃない。ハリウッドスターは凄いね。

 しかし、成績が低迷していた南アのチームがなぜ強くなり、優勝できたのか。南アが優勝することで、それまでアパルトヘイトで黒人と白人がバラバラだった国を一つにしようとしていたマンデラが、主将のマット・デイモンに言葉を託したり、主将もチームのみんなを連れてマンデラが幽閉されていた監獄に行くシーンがあった。こうしたシーンから推察すると、精神力がチームを強くする大きな要因であったことは確かだが、もっと具体的に戦略・戦術面あたりにも触れてほしかった。

 試合もそこそこに感動的だが、やはりマンデラの偉大さが際立つ映画であった。マンデラについては、また別の機会に。

 ところで、この映画のハイライトである1995年に行われた第3回ラグー・ワールドカップ。その南アとニュージーランドの決勝の試合を、私はテレビの衛星放送でリアルタイムで見ていた。196cm、119kgの巨体ながら100mwo10秒5で駆け抜ける脚力をもつ、あの怪物ロムーの突進を、南アの選手達は見事に複数による低いタックルで見事に封じていたのが、いまも印象に残っている。

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マンデラの名もなき看守

南アフリカ共和国の歴史を知るには、格好の映画だ

★★★★

 南アフリカのアパルトヘイト体制の下での看守の任務にあたったジェイムズ・グレゴリーの手記の映画化である。

 主人公のグレゴリーも妻も、アパルトヘイトは当然だと考えていた頃、妻が子供に言う。「黒人はテロリストなの。アパルトヘイトは神の意志なの。ツバメとスズメは違うでしょ。それが自然なの」。なるほど、こういった理屈で当時の白人は、アパルトヘイトを当然として認めていたんだと知る。

 また、アパルトヘイトが世界的に非難され始め、さらに黒人のテロ活動を抑えるためにも、当時の白人政権にとって、マンデラは絶対に生かしておくべき存在となっていく。そのため、18年間も収監されたロベン島の刑務所から、ボルムスムーア刑務所、ビクター・バースター刑務所へと移るたびに、待遇がどんどんよくなっていく。

 勘違いをしていたことがこの映画で一つ分かった。以前、マンデラのドキュメンタリーの一部を見たとき、ガンジーの思想に共感していたマンデラは、ずっと非武装抵抗運動をしていたと思っていたが、実際は、政党が非合法化された1960年以降は、武装闘争をしていたことも分かった。だが、できるだけ人的被害が出ないように、工場や発電所などを狙っていたようだ。

 しかし、アパルトヘイト撤廃後の姿勢は見事なものだ。28年もの長い刑務所暮らし、さらにそれまでに黒人が受けた差別と虐待があったにも関わらず、復讐ではなく、民族宥和政策をとり、平和裡に新しい国づくりに成功したのだから。本当にたいしたものだ。

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THIS IS IT

リハーサル映像で、誤解されることの多かった彼の人間性と超一流ぶりを知る。

★★★★

 本来なら、メーキング映像だけで商品にしてしまったわけで、普通なら、誰もお金を出して映画館で見ないだろう、誰もDVDを購入しないだろう。けれども多くの人が劇場に足を運び、DVDを購入した。そして僕もその一人だ。
 ある意味、この「THIS IS IT」は、舞台裏を公開することによって、誤解されることの多いマイケル・ジャクソンの実像に迫る事が可能になった。彼がいかに優れた超一級のエンターティナーであったのか、彼が人間的にいかに優しいハートの持ち主であったかを知るには、絶好の作品になったと思う。 

 実は、最初、ロンドン公演の話がマスコミに流れたとき、てっきり裁判沙汰などでお金に困ってのものだと思っていた。また、公演も期間が空いており、落胆するようなステージにしかならないのではないかと勝手に考えていた。そして、公演の16日前に、マイケル・ジャクソンは原因不明の死を招いた。その姿は、心身ともに消耗させた上でのプレスリーの死と重なった。
 だが、この映画で、私の考えは見事なまでに覆された。それどころか、究極のエンターティナーとしての姿を発見することができ、とても嬉しかった。

 なぜ、究極のエンターティナーかといえば、歌、踊り、演出、すべてにおいてレベルが高いことにつきる。歌だけ、あるいは踊りだけ上手なプロはいくらでもいるが、すべてにおいて超一流であること。これはやはりすごい。ミュジーカル俳優の天才であったフレッド・アステアをも抜いてしまった。
 世界中から1000人以上のダンサーが集められ、オーディションによって11人に絞られる。その過程も映していた。みんなすごい連中ばかりだ。みんなマイケルと同じステージに立ちたいのだ。そして選ばれた11人とマイケルは一緒に踊る。待ってくれ、マイケルはダンサーじゃない。でもどのダンサーよりも、キレがいい。ってことは、ダンサーでも超一流なんだと、改めて実感した。

 また、自在に歌いこなせる声の幅と歌唱法を備えていることもわかった。天使のような高音域の美しさは、アート・ガーファンクルを凌ぐほどだ。また、ときには激しく、どんなにドラマチックにも歌い上げることができるのだ。
 正直、かつてはマイケル・ジャクソンを好きというわけではなかった。だが『THIS IS IT』を観た今は違う。今晩は、唯一持っている1枚のDVD、『HISTORY ON FILM Vol.2』を、さっそく見よう。

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愛を読むひと

難しい役を見事に演じたケイト・ウィンスレットに脱帽!

★★★★

 第二次大戦中、ナチスドイツのヒットラーユーゲントに参加し、収容所の監視員としての過去を持つ女性と、戦後のベルリンで出会い、男女の関係となった中学生(ぐらい)の男が、大学時代、法律の勉強の一環で裁判所を傍聴したおり、彼女が被告席にいるのを見る。彼女は、文盲であることを知られたくなくて罪を被り有罪となる。刑期を終えて出所後の面倒を男がみることを約束した日、彼女首つり自殺をした。

 彼女は、真面目な性格、責任感が強い。与えられたことはきっちりこなす。やさしさも併せ持っている。物語を聞かせてもらうのが好き。

 原題は、「The Reader(朗読者)」。つまり男が主人公だ。女性は朗読を聴く人ということになる。自分で読まずに、聴く人。ここに、文盲として育った女性の悲しみがある。その理由は、一切明らかにされないが、たぶん、極貧生活で育ち、学校にも行けなかったのだろう。

 だから、先に述べた真面目で優しい性格の彼女だが、教養を身につけ、視野を広げる機会はなかった。だから、ヒットラー・ユーゲントにも、疑問を持たずになったのではないかと推測される。

 こんな複雑な性格の女性を、ケイト・ウィンスレットは見事に演じた。弟81回アカデミー賞(2008年)で、主演女優賞を獲得したのも当然といえよう。

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そして、私たちは愛に帰る

ドイツとトルコの現在の関係を知るのに絶好の映画

★★★☆

 3組の親子(ドイツ人親子1組、トルコ人親子2組)を軸に、複雑に絡み合いながらストーリーは展開していく。
 10年以上も前からドイツにトルコ人の移民が増えていたのは、新聞紙上等でも知っていた。そして近年の不景気によって、トルコ系の人たちの失業が問題になっていたようだ。
 ドイツの労働人口の不足をおぎなったのが、なぜトルコだったのか? 誰しも抱く疑問だろう。インターネット上では、①ドイツとトルコは、第一次世界大戦の時に同盟関係にあった。②真面目なドイツ人のもとで働けるのは、辛抱強くて教育レベルの高いトルコ人しかいなかった、といった理由があがっている。真偽のほどは分からないが、たぶん当たっているのだろう。

 「娘が教育を受けるためなら何でもするわ」とドイツで娼婦をしている女性。そして娘は、反体制の活動をして警察に追われている。
 3組の親子の中でも、この親子が一番厳しい環境で生きている。そして母親は殴られて倒れたときの当たりどころが悪くて死亡し、娘を助けようとしたドイツ人の娘も子どもたちに拳銃で撃たれて殺される。この2つの死を通して、再び親子の絆を取り戻すシーンが、切なくて美しい。いい映画だと思う。

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スラムドッグ&ミリオネア

追われる人物を描かせると、天下一品だ

★★★☆

 うまく出来ている。巧みなストーリー展開は、さすがにダニー・ボイルだ。
 最初は、警察に拷問まがいの取り調べをうけるシーン。「なぜ、答えを知っている? どこで不正をしているのか?」と。
 次に、テレビ番組、「クイズ・ミリオネア」で次々に正解する主人公が登場する。
 そして、主人公の少年時代が映される。
 この3つのシーンが順繰りに描き出されていく。なんだろ? どういう意味なの? 観る者は、誰しも戸惑うに違いない。この3つのシーンの関係は?
 それが、徐々に繋がりだしてくる。うーん、上手いなと感心する。そして最後はハッピーエンドとなる。

 よくできているし、2009年のアカデミー作品賞を受賞した名作だ。でも、なぜか感動できない。なぜだろう。インドのムンバイで育つスラムボーイたちの過酷で逞しい人生を描き切っていないからなのだろうか。
 周囲の心配をよそに、勝手に純愛を突っ走る主人公の行動に共感できないからなのだろうか。もう少し、時間をかけて考えることにしよう。

 しかし、子どもたちが追われるシーンは、いかにもダニー・ボイルらしい。出世作となった「トレイン・スポッティング」も、ヘロイン中毒の若者たちが追われるシーンから始まっていた。つまり追われる立場の人物、社会的弱者として、罪を犯しながらも逞しく生きている人物を描かせると、実にうまい監督なのだ、ダニー・ボイルは。

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人生に乾杯!

社会への怒りを胸に、強盗をくり返す老夫婦に喝采!

★★★★

 初めて観たハンガリー映画。
 社会主義国ハンガーで老後の生活を支えるのは年金。しかし頼りにその年金では暮らせなくなり、借金に追われる生活に怒りが爆発。老人が銀行強盗を企てる。最初は警察に協力していた妻も夫に荷担し、2人は強盗を重ねながら逃避行を続けるのだ。
 彼らの行動をもっともだとハンガリーの老人達が賛成の声を上げ、中には模倣犯まで現れる始末。
 そして、暴走する2人は、「最後に海をみたい」という妻の言葉に導かれて国産車チャイカを疾走させる。そして警察が仕掛けたブルドーザーに激突する。
 これにはどんでん返しがあるのだが、それを紹介するのは、やめておこう。

 これを観て連想する映画は、ボニーとクライドが活躍する「俺たちに明日はない」であり、車でブルドーザーに激突するシーンは、「バニシングポイント」だ。だが老夫婦は、極めて紳士的で一人も殺していないし、老人達の賛同まで得ている。そして最後の激突も、良い意味で期待を裏切ってくれる。
 優れた映画の大半は、良質のユーモアが隠し味のように含まれている。この映画もその格好の例だ。美男美女が登場しなくても、よい映画は、味のしみこんだおでんのように、ただただ旨い。

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ONCE ダブリンの街角で

ストリートで出会った男女が音楽を通じて触れ合う。
後味の良いミュージック・シネマだ。

★★★★

 ロンドンにいる恋人と別れ、ダブリンで電気掃除機の修理屋をやっている父親の元に帰ってきた主人公は、父親の仕事を手伝いながら、ストリートミュージシャンをやっている。
 男の歌に聴き入っている女性が、彼に近づき、いろいろと質問する。翌日壊れた掃除機を持ってきた女性(夫と別居中のチェコからの移民)は、楽器店に寄ってビアを弾く。その才能に惚れた男は、一緒にCDアルバムを作ることを提案する。
 全編に音楽が流れ、気分の良い音楽映画だ。2人ともプロのミュージシャンだと思っていたが、調べてみると正解だった。男のグレン・ハンサードは、アイランドでは有名なミュージシャンらしい。女のマルケタ・イルグロヴァも、やはりチェコのミュージシャンで、実際に2人は一緒に演奏してCDを出している。
 虚実ない交ぜになった感じで作られているが、音楽への愛、人間への愛をストレートに謳い上げたよい映画だ。とくにマルケタ・イルグロヴァの透明な声が心に浸みる。
 また、2人は惹かれあいながらも男女の一線を越えずに、友情を保ち、そして最後はそれぞれの人生を再び歩み出すあたりも、清涼感があっていい。

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ラブリーボーン

サスペンスとファンタジーの奇妙な融合

★★★

 殺された13歳の娘、スージーが主人公だ。殺された主人公が映画全編について狂言回しのようにストーリーや自分の気持ちを語りながら、話が進んでいく。観客は、犯人が誰かは分かっているが、犯人の手口や犯罪常習性などが徐々に明かされていく。
 ユニークなのは、スージーが、犯人への憎しみ、そして家族への愛のために、あの世とこの世の間で彷徨っている場面である。想像力の限りを尽くして、様々な映像世界をたっぷり見せてくれる。

 サスペンスとファンタジーが融合した奇妙な映画、という印象がした。残忍な話だが、後味は不思議と悪くない。なんだか酸っぱいレモンを食べたような感覚が残る。

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