映画の海

Dr.パルナサスの鏡

想像力の限りを尽くした
懲りに凝った魔術的映像を楽しむ

★★★★

 舞台は英国のロンドン。移動式の不可思議な見せ物小屋の一行をメインに話が展開する。
 数世紀前に悪魔との賭け(悪魔は、「無知は幸せ」といい、博士は「創造力は人生を変える」と主張。弟子を12人早く獲得した方が勝ち)により、悪魔の企みによって勝ってしまい不死の命(実は、これこそが苦痛。博士は1000歳を超えている)を手に入れたパルナサス博士は、自分の娘を16歳の誕生日に悪魔に引き渡さねばならなくなり、苦悩していた。
 彼は自身の率いる、他人の想像の世界を垣間見る鏡の見世物を巡り、パーシーら古くからの仲間とともに興行を続けながら、何とか悪魔との賭けに勝利する手立てを画策していた。そんな折、博士はタロット占いの「吊られた男」のカードが示した、橋の上から吊るされた若者トニー(ヒース・レジャー)を死から救う。助けられたトニーは商才を発揮して見世物を繁盛させ、博士の助けとなるが、悪魔との賭けのタイムリミットは目前に迫っていたノ。
 2007年12月にロンドで撮影開始。撮影中にトニーを演じるヒース・レジャーが急逝、撮影が中断し一時完成が危ぶまれたが、彼と親交のあったジョニー・デップ、ジョニー・デップ、コリン・ファレルの3人が別世界にトリップしたトニーを演じることが決まり、撮影が再開された。
 こうした美しい友情がセットされた映画なのだが、正直言って、ストーリーはよく分からない。だが、奇才テリー・ギリアム監督ならではの、懲りに凝った魔術的映像が次々に繰り広げられる。これだけでも十分楽しめる作品だ。

Dr.パルナサスの鏡.jpg2010年1月公開/イギリス、カナダ/テリー・ギリアム監督/出演:ヒース・レジャー、ジョニー・デップ、ジョニー・デップ、コリン・ファレル、クリストファー・プラマー

ラスト3デイズ

愛する妻のためとはいいながら、そこまでやるか、の脱出劇

★★★★

 国語教師の夫ジュリアンと、出版社勤務の妻、そして可愛い息子の3人暮らしだ。ところが妻が殺人容疑で逮捕され、裁判でも有罪になる。絶望した妻は自殺未遂を図る。
 そこでジュリアンは方法を考える。一般的には、真犯人を探すというのが、定番だろう。だが、彼が導き出した結論は、妻を脱獄させることだった。もちろん犯罪であり、教師の身分も何かも棄てることだ。リスクが高過ぎる。いくら愛する妻のためにはいいながら、そこまでやるか。と観ている者なら誰もが突っ込みたくなる。

 だが彼は計画を実行するために、まず『脱獄人生』という本を書いた著者パスケに会って話を聞く。ここがこの映画の大きなポイントだ。
 パスケはいう。どんな監獄でも、どこかに抜け出すカギがある。また、ほとんどの脱獄犯は馬鹿だ。脱獄しても、すぐに掴まってしまう。それは家族か親戚や知り合いのところに立ちよるからだ。難しいのは、脱獄することよりも、脱獄後だ。この発想は新しい。『大脱走』『パピヨン』『ショーシャンクの空に』『アルカトルズからの脱出』『ザ・ロック』『ミッドナイトエキスプレス』『板尾創路の脱獄王』などなど、今までの脱獄をテーマにした映画と、一線を画するユニークな点だといえよう。

 結果的に脱獄に成功するのだが、残された計画のための落書きを見て、警部が言う。「平凡な男だ」。さて、その後の家族3人の運命は? 

ラスト3デイズ.jpg2008年製作/フランス/フレッド・カヴァイエ監督/出演:ヴァンサン・ランドン、ダイアン・クルーガー

アンナと過ごした4日間

色彩感のない寒々しい風景の中で展開される片思いが、切なく哀しい

★★★

 ぬかるんだ道の上で動かない車を数名の男達が押している。中年男が斧を買う。ドラム缶から手首を取り出す。川に死んだ牛が流れている。冒頭、冬の寒く寂しいモノクローム調の風景をバックにこうしたショットが、映し出される。サスペンスかホラーの予兆のような不穏な雰囲気が漂ってくるが、この映画は、サスペンスでもホラーでもなかった。病院の焼却施設で働く、体の悪い祖母と2人で暮らす孤独な中年男レオンの、決して成就しない切ない片思いの話なのだ。
 彼の表情、歩き方、コミュニケーションの下手さから、心身にある種の生涯を持っていることが知れる。だが、彼は愚直で働き者である。そんな彼が、強姦されていた看護婦アンナを見初めて、覗きを始める。さらには、睡眠薬を使ってアンナが眠っている間に部屋に忍びこむ。その彼がその部屋でしたことは、ブラウスのボタンのほつれを直す、ペディキュアを施す、パーティで散らかった部屋の掃除をする、花束を飾る、宝石をおくといったものだ。
 純愛といえば純愛だが、法的に言えば、ストーカー規制法違反であり、不法家宅侵入罪である。結局、彼は掴まり有罪になる。アンナは、彼の気持ちを察して許すが、恋が成就する訳ではなかった。ストーリー的には一番自然な流れなのだが、この作品で、スモリスキー監督は、何を訴えたかったのだろうか。

 「覗き」といえば、同じポーランド人のクシシュトフ・キェシロフスキ監督の「デカローグ 第6話 ある愛に関する物語」を思いだす。この映画も、一度見たら忘れられないほど暗鬱な風景が印象に残っている。2人の監督に共通した孤独で寒々とした風景は、抑圧され続けたポーランド人の心の風景でもあるのだろうか。

アンナと過ごした4日間.jpg2009年10月公開/ポーランド、フランス/イエジー・スコリモフスキ監督/出演:アルトゥール・ステランコ

タイタンの戦い

ギリシャ神話の世界を映像化。ガッカリ場面も‥。

★★★

 ギリシャ神話のペルセウスの話しベースに映像化したもの。生け贄にされるアンドロメダ姫、歳を取らないイオ、目を合わせると石にしてしまうメデューサ、そして羽根の生えた馬ペガサスなど、お馴染みの登場人物が出てきて、活躍する冒険スペクタクル。ギリシャ神話好きには、それだけで十分だ。
 ただ残念だったのは、ゼウス、ヘラ、アポロンなど天上界の神々の姿だ。銀色に輝いた宝塚スターのような衣装は、違和感があり過ぎる。何でも日本のアニメ『聖闘士星矢』の影響らしい。これを知ったときは、心底ガッカリした。

タイタンの戦い.jpg2010年4月公開/アメリカ、イギリス/ルイ・レテリエ監督/出演:サム・ワーシントン、ジェマ・アータートン、アレクサ・タヴァロス

ソルト

アンジェリーナ・ジョリーが追われ、追いつめるアクション・サスペンス

★★★

 アメリカCIA本部。優秀な分析官イブリン・ソルトは、突然現われたロシアからの亡命者・オルロフを尋問する。特殊スパイ養成機関の元教官だという彼は、アメリカに長年潜伏してきたロシアのスパイが、訪米中のロシア大統領を暗殺すると予告する。そして、そのスパイの名は「イブリン・ソルト」だと告げる。一転して二重スパイ容疑をかけられたソルトは、身の潔白を訴えるが聞いてもらえず、最愛の夫の身を案じてCIA本部から逃走。だが自宅に夫の姿はなく、何者かに連れ去られた形跡が残っていた…。

 こんな感じで話は展開していく。だがなぜロシアのスパイが、ロシアの大統領を暗殺しなければならないのか。それはロシアがアメリカへ戦争をしかけるための口実にしようというわけだが、この設定自体が随分と荒唐無稽に感じられる。
 話は二転三転するのだが、この映画は、人気絶頂のアンジェリーナ・ジョリーのアクションシーンを楽しむための映画だと思えばいい。なにせ逃亡するときは、高速道路を走る車の屋根から他の高速道路を走る車の上へと飛び移り、手錠が掛かったまま、車の運転を妨害して車を道路から落としたり、暴走する地下鉄から飛び降りたり、降りていくエレベーターを追って、鉄骨の枠を飛んだり、シャフトで体を支えて滑り降りたり‥。ふぅ、書いていても疲れてしまう。
 疑問符はいくつも残りながらも、テンポよく話は展開する。紹介したアクションシーンは見応えあり。これはこれで、私は嫌いではない。

ソルト.jpg2010年7月公開/アメリカ/フィリップ・ノイス監督/出演:アンジェリーナ・ジョリー

クレイジー・ハート

愛を得るためにアルコール依存症を克服。
ジェフ・ブリッジスは本物の歌手のように上手い!

★★★★

 絶頂期を過ぎたカントリー・ウエスタン歌手、バッド・ブレイクは、今日も広大なアメリカの平原を運転しながら会場へ着き、演奏を行う。宿泊先は安モーテルだ。彼はアルコール依存症であり、演奏中以外はいつも酒を飲んでいる。なぜ彼がアルコール依存症になったのかは明かされていない。ただ、4回の離婚と、3、4歳のときに別れて以来、一度も会っていない息子がいることだけは分かる。
 演奏ツアーの途中で、若い女性ジャーナリストのジーンと出会ったバッドは、お互いに惹かれあい、バッドは新しい家庭を作れるかもしれないと感じる。2人の男女の愛と葛藤が丁寧に描かれていて破綻がなく、スムーズに感情移入できる。
 後輩のカントリー歌手から作曲を依頼され、バッドは今の心境を歌にしていく。この歌詞がこの映画のテーマともいえる。「どん底に落ちて、やっとつかんだかすかな愛。ここは疲れ果てた男の居場所じゃない」。
 ジーンが、バッドの才能を羨ましいという。バッドが言う。「いい曲ってのは、どこかで聴いた気がするものさ」。いい台詞だ。その通りだと思う。
 ジーンの息子を酒場で見失ってしまったバッドは、断酒を誓い、断食サークルに参加する。アルコール依存症を見事に克服したが、彼女との愛は成就しなかった。でも彼は、大いなる充実感を得ていた。
 バッドは家庭こそ持っていないが、理解あるマネジャーやバーの主人、彼を尊敬する後輩歌手、そして昔からのファンが多くいる。けっして孤立はしていない。だからアルコール依存症から立ち直れる機会も多いのだと思う。

 主演のバッドを演じたジェフ・ブリッジスは、2009年のアカデミー主演男優賞に輝いている。それにしても彼は、本物のカントリー歌手といってもおかしくないほどに上手い。調べてみると、役者以外にも、ミュージシャン、写真家、画家など幅広い活動しており、しかも写真集やCDの売上のほとんどは恵まれてない子どもたちのために寄付をしているらしい。

 ハリウッドの音楽をテーマにした、最近の作品で思いだすのが、ケビン・スペイシーがボビー・ダーリンを演じた『ビヨンド・ザ・シー』、ジェイミー・フォックスがレイ・チャールズを演じた『レイ』などだ。これら伝説のミュージシャンを演じる役者たちの歌や演奏は、唸ってしまうくらいに上手い、達者である。嬉しくて花火を上げたくなるくらいだ。これからも、どんな作品が生まれるのか楽しみである。

クレイジー・ハート.jpg2010年6月公開/アメリカ/スコット・クーパー監督/出演:ジェフ・ブリッジス、マギー・ギレンホール、ロバート・デュバル

世界最速のインディアン

「“危険”は人生に味をつける」。
生きる勇気を与える、さわやかな傑作

★★★★★

 ニュージーランドの小さな町、インバカーギルの小さな家に独り暮らしているバートは、早朝からバイクの爆音を轟かせる名物の老人だった。家族もなく、年金暮らしで貧しかったが、自ら改良したバイクで、数々の国内記録を残していた。バートの夢は、米国ボンヌヴィルの大会で世界記録に挑戦すること。苦心して改良したマシン、インディアン号とバイク少年からの餞別を手に、ライダーの聖地目指して出発した。

 といった感じで、話しは展開していく。インバカーギルからボンヌヴィルに到着するまでの様々な人との出会いとエピソードも楽しく、味わい深いロードムービーとなっている。レース会場となっているソルトフラッツの美しさは特筆ものだ。見渡す限り広い平原に立つバートの感慨たるや、さぞやと思わせるものがある。さらにレースに至るまでも様々な壁が立ちふさがるが、それもバートの魅力に引き付けられた人々が力を貸し、念願のレースに出場。世界最速記録を樹立するのだった。

 実在のスピード狂として伝説的な人物、バート・マンローをモデルに作られた感動の人間ドラマであり、主人公を「ハンニバル」のアンソニー・ホプキンスが演じている。とにかう、うまい。夢を追い続けることの素晴らしさや、危険を恐れずに挑戦することの大切さ、人生を楽しむコツなどが随所に散りばめられている。文句のつけようのないさわやかな傑作である。

●実在のバート・マンローについて
1000cc以下の流線型バイク世界最速記録保持者。 ニュージーランドに生まれ、15歳からバイクに乗り始める。1920年、インディアン・スカウトを購入。このマシンの元々の最高時速は80キロ台だったが、よりスピードを求めて改良を重ね続ける。 62年、63歳の年齢ながら、アメリカのボンヌヴィル塩平原(ソルトフラッツ)で世界記録に初挑戦し、時速288キロの世界記録を達成。以後も70歳過ぎまで毎年のようにボンヌヴィルへ行き、67年には時速295.44キロのインディアン最速記録を出す。ちな みに公式記録にはならなかったが、この年に出した最高時速は331キロだったという。

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第9地区

異文化とのつきあい方を教える寓話的なSF映画

★★★★

 奇妙なSF映画である。宇宙船やエイリアンが出てくるが、これまでのSF映画とはかなり趣きが異なる。
 宇宙船が南アフリカのヨハネスブルクの上空で故障したため、仕方なく地上に降りて、隔離された第9地区で難民として地球人たちと暮らしている。
 ところが彼ら専用の第10地区に移動させるため、立ち退き命令を出すのがMNUのエイリアン対策課職員の現場責任者ヴィカスの役目だ。
 宇宙船を操縦するくらいだから、クリストファー・ジョンソンのように高い頭脳を持つエイリアンもいるが、総じてエイリアンたちは強くはなく、粗末な小屋でひっそりと暮らしている。

 この話の面白さは、立ち退きを迫る側の人間が、謎の液体を浴びるという不幸な事故をきっかけにして自分の体がエイリアンに変化することで、地球人たちから追われる立場に変わる点にある。そのとき、エイリアンの気持ちを理解し、彼らの味方として行動するようになる。

 ここまで書いたところで、「これって、アバターに似てやしないか」と想い至る。貴重な資源のある場所からアバターを追い払おうとして画策する一員として送り込まれた主人公が、逆にアバターの世界に魅かれ、逆にアバターたちと一緒に戦う事になる。似ているな〜。

 第9地区は、アバターと違って、ユーモア感覚にあふれている。エイリアンも巨大なエビみたいだし、主人公はドジだ。その主人公に、「3年後に助けにくる」宇宙船で逃げたエイリアンのジョンソンは伝えた。ということは、これは続編ありですな。

 話の舞台が、つい最近まで極端な人種隔離政策であるアパルトヘイトを行っていた南アフリカというのは象徴的である。この映画は、「異質な人種・文化とどうのつきあうのか」という普遍的なテーマを扱った寓話でもあるのだ。

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ハート・ロッカー

ドキュメンタリーのようなリアル感のある戦争映画

★★★★★

 爆発物処理を専門とする特殊部隊の活躍を描いているため、見ているこちらまで、ハラハラドキドキ、いつ爆発するのかと緊張を強いられる。

 小林信彦氏によれば、戦争映画の中で、この種のものは、最小の編成単位である小隊の活躍を描いた「小隊もの」と呼ばれるらしい。
 また評論家の芝山幹郎氏が、ある映画評の中でヒッチコックの言葉を引き合いに出して、サスペンス映画の定義を紹介していた。「テーブルの下に爆弾が仕掛けられている。それが爆発すればただのアクション映画にしかならないが、いつ爆発するかわからない状態でテーブルを囲む人々がポーカーに興じていればサスペンス映画が成立する」。
 その意味でも、ハート・ロッカーは、格好のサスペンス映画といえよう。

 最初、主人公は、黒人の兵士、サンボーン軍曹かと思ったが、そうではなくて、爆死した兵士のかわりに参加した怖いもの知らずの大胆なジェームズ一等軍曹だった。
 その彼も、現地の子供と親しくなり、その彼が死んだと思った時は、人間的な感情をあふれさせて涙をした。
 そして除隊となり、平和の家庭の父としての日々が帰ってきた。ところが、彼は再び、自ら志願して戦場に赴くのだった。

 「戦争での高揚感は、時には激しい中毒になる。戦争は麻薬である」。最初にながされるこのクレジットが、この映画のテーマを雄弁に物語っている。しかし、このクレジットを最初に出すのは、いかがなものか。この点が気になった。

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マイレージ、マイバンク

首切り専門会社のプロという設定が面白い!

★★★★

 年間出張322日、企業のリストラ対象者に解雇を通告するプロフェッショナル、 "リストラ宣告人"—ライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー)。人生の"荷物"を持たず、夢の目標1000万マイル達成だけが彼の存在証明だ。

 そんな彼の人生に、予期せぬ転機が訪れる。結婚しない主義だった彼が本気で結婚を考えた。ところが相手の女性は、家庭を持っていたことを知り、落胆する。そして妹の結婚式に出席した彼は、家族のために、本気になって破綻しかかった話をまとめるのだ。

 家族の絆の大切を再認識させる映画がアメリカには最近多いように思う。逆言えば、それだけ家族の絆が薄れ、孤独を感じているアメリカ人が多いってことでもある。

 しかし、驚いた。アメリカには解雇通告の専門会社があるとは。この会社は、人事担当者がいやがる仕事を専門に請け負うのだ。
 この仕事の凄腕のプロが、ジョージ・クルーニー演じるライアンというわけだけだ。ライアンは、面と向かって相手と話をする事で苦痛を和らげるという主義であり、ドライな中にも一辺の人情を持ち込む。

 ところが、パソコンの映像システムを使えば出張費も不要になり、仕事を効率化できると主張する若手女性社員が入社する。その後の2人のやり取りが話のメインストトーリーであり、展開もなかなか面白い。
 日本でもやがて、こんな解雇通告専門会社が出現するのだろうか。

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アバター

未体験世界を見せてくれ、十分堪能!

★★★★

 「タイタニック」のジェームスキャメロン監督が16年ぶりに撮った初の本格的3D映画ということで興行記録を塗り替える大ヒット映画を遅ればせながら観た。最初は目が慣れなくて疲れたが、30分ほど過ぎた当たりから慣れてきた。

 いわゆるSFファンタジーものの一種であり、想像力を駆使した風景や生き物は、例えば、サイと鐘木ザメを合体させたここからネタを持ってきたなと推測しながらではあるが、十分楽しめた。とくに怪鳥に乗って空を飛び回るシーンは、自分が乗っているようなリアルな感覚で、見る者に刺激と快楽をもたらしてくれる。

 ストーリーは、人間そっくりの種族が住む星に送り込まれた主人公は、彼らの姿となってスパイとして送り込まれる。だが、彼らと一緒に暮らすうちに、彼らの生活に共感した主人公は、逆に侵略する人間の方が間違っているのではと疑問を抱き、ともに戦うことになる。

 なんか、似たストーリーがあったような気がする。そう、「ダンス・ウイズ・ウルブス」だ。騎兵隊員の主人公は、インディアンとの交流を通じて、自然と調和した彼らの生き方に安らぎを覚え、やがて彼らの仲間として受け入れられる。ところが裏切者として騎兵隊に捕まってしまう。それをインディアンが助け出す。これを機にインディアンを全滅しようと騎兵隊が動きだすといったようなストーリーで、騎兵隊を代表にする白人社会への痛烈な批判が込められていた。

 実は、ここまで書いてネットで調べたら、キャメロン監督は、2009年8月にTimes紙とのインタビューで「アバターは『ダンス・ウィズ・ウルブズ』の宇宙版だ」と発言していた。私の推測は見事に当っていた。

 もう一つ、この映画で想起させるものがイラン戦争だ。星に進出する理由が、金になる鉱物資源を狙った利権がらみ。これはテロとの戦いの旗を掲げる一方で、石油資源を狙った戦争とも言われているイラク戦争のアナロジーではないか。こうした様々な推測を可能にする点もこの映画の面白さかも知れない。

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宮廷画家ゴヤは見た

ゴヤが生きた激動の時代を映し出す力作。
彼が見たものは、人間の栄光と悲惨だ。

★★★★

 スペインの画家、ゴヤのモデルであるイネスを中心に話を展開させながら、ゴヤが生きた時代を映し出した力作。当時のカトリック教会が行っていたおぞましい異端審問会、そしてナポレオン軍の侵攻と撤退による、戦争の無惨さなどがリアルに描かれる。

 宮廷画家だったゴヤは、カルロス4世をはじめ多くの肖像画を描くと同時に、人間や社会を痛烈に風刺したエッチングを制作した。人間の栄光と悲惨、天国と地獄、贅沢と清貧、その両極をしる人物として、天才的な筆致で、人間のあらゆる面を描き出す。もし、小説家になっていたら、フランスのバルザックに匹敵する、あるいはそれ以上のスペインの国民作家になっていたに違いない。

 しかし、大富豪の娘として生まれ、ゴヤのモデルになり、異端審問会にかけられて、牢獄に閉じこめられ、神父の子どもを身ごもって死産となり、精神に異常をきたした女性として描かれるイネスにまつわる話は、どこまで事実なのだろうか。興味は尽きない。

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イングロリアス・バスターズ

ユダヤ・ハンターと呼ばれる
クリストフ・ヴァルツの演技が秀逸!


★★★

 ナチに支配されるパリの映画館を中心に話が展開する。
 「ユタヤ・ハンター」と呼ばれ、ユダヤ人狩りに特異な才能を発揮するナチのランダ親衛隊大佐(クリストフ・ヴァルツ)から逃れたユダヤ人の女性は、パリの映画館のオーナーとなっている。その映画館でナチの偉いさんが一堂に集まりナチ礼賛の映画が上映されることになる。
 女性にとっては、絶好の復讐のチャンスであり、またナチ狩りに活躍するアメリカ秘密特殊部隊、イングロリアス・バスターズのレイン中尉(ブラッド・ピット)たち、イングロリアス・バスターズも映画館爆破を企てる。
 爆破の件だけに触れると、なんと映画館は燃え、ヒットラーもゲッペルスも焼け死んでしまうのだ。ということで、これは史実でなく、フィクションであり、タランティーノ節炸裂の娯楽大作である。

 この映画で一番印象に残った役者は、太々しくタフな役柄が似合っているブラッド・ピットも良かったが、クリストフ・ヴァルツである。蛇のようにねちっこく皮肉を交えて喋りながら相手を追いつめていく役柄が、実にはまっている。調べてみると、彼はウィーン出身で、ドイツ語、英語、フランス語に堪能で、アカデミー助演男優賞、カンヌ映画祭男優賞などを受賞していた。納得!

 それにしても、相変わらずタランティーノ映画の登場人物は、よく喋る。さらにグロテスク趣味も、頭の皮剥ぎシーンなど、ふんだんに盛り込まれている。私はグロは好きじゃないので、次回からは、ほどほどに願いたい(無理だろうけどね)。

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デス・プルーフ・イン・グラインドハウス

B級映画とスタントマンへの限りないオマージュ

★★★☆

 日本ならエロ・グロ・ナンセンス、アメリカなら、セックス、バイオレンス、カーアクションなどをちりばめたB級映画を2本立てで上映していた映画館を、グラインドハウスと呼ぶらしい。数少ないフィルムを、何度も上映するため、フィルムが切れたり、すり切れてたりするのは当たり前。それでも、映画好きな少年は、映画館の闇に身を浸し、しばし日常世界を忘れ、架空の世界に没頭するのだった。
 大の映画マニア、マカロニウエスタンから東映のやくざ映画まで好きだったタランティーノ監督ならではの、B級映画風に作った、実に凝った映画だ。

 スタントマンが時速200キロで壁にぶつかっても死なないようにできている耐死仕様車(デス・プルーフ)を使って、狙いを定めた女性を殺すことで喜びを感じる変態スタントマン、マイクが登場する。前半は、マイクの狙い通りに見事に成功する。ところが後半は、逆に女性スタントマン2人の女性の逆襲にあい、殺されてしまうのだ。
 この映画は、カーアクション映画を影で支えているスタントマンへのオマージュでもある。

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イースタン・プロミス

ロンドンの暗部を知り、主人公の魅力が妖しく輝く。

★★★★

 ロンドンに巣くうロシアン・マフィアを描いた映画。
 タイトルのイースタン・プロミスとは、どういう意味なんだろ。「東方の掟」といった感じなんだろうか。(その後、資料を当たると、「英国における東欧組織による人身売買契約」のことだそうだ。訂正しておきたい)。
 主人公(ヴィゴ・モーテンセン)も、ロシアン・マフィアの一員であり、平然としたクールな態度で、冷凍した死体から歯を抜き、10本の指先を挟みでぜんぶ切り取るのだった。証拠を残さないためだ。プロの技である。
 ところが、彼は、いわゆる素人である堅気には手を出さない主義のようで、事件に関わりになりそうな助産婦(ナオミ・ワッツ)に、何度も忠告を与える。彼女の叔父を殺すように、ボスに命じられた彼は、殺したように見せかけ、エジンバラにかくまう。
 このクールで憎めない主人公を、モーテンセンが見事に演じきっている。「キング・コング」の時は、さほど美人には見えなかったナオミ・ワッツも、今回は美しく感じた。
 サウナでの、チェチェンマフィアとの壮絶な死闘も見所の一つ。真っ裸で転げ回るのは、さぞや痛かっただろう。
 しかし、実際のところ、ロシアン・マフィアはロンドンにどの程度の勢力をはっているだろうか。一度、調べてみよう。

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2012

ディザスター(災害)映画の面白さを存分に堪能

★★★★

 「インディペンデント・デイ」のローランド・エメ監督による、地球崩壊映画の一つ。崩壊理由は以下の通り。
 2012年12月21日、64万年に一度の太陽系の惑星の直列が起きる。
 その前兆として、すでに太陽からの放射線(ニュートリノ)が大量に放射されており、それによって地球のコアがたた暖められ、地球の磁場が80%減少し、地殻が浮いた状態になりつつある。やがて地殻の崩壊が始まる。巨大な地震や地割れが起き、大津波が起き、地球全体が海に沈むという設定だ。
 これは1958年にパプグッド教授が唱えた「地殻移動説」にあたるもので、アインシュタイン博士も賛同した、という最らしい説明が付け加えられる。

 地球の崩壊に対して、主人公を含む人類はどう対処するのか。結論を言えば、ノアの未来版・ノアの箱船をつくって、人類の存続を図ろうというものだ。その間のやりとりが映画のストーリーとなる。主人公たちの行動で、かえって危険度が高まるなど、不自然で共感できない部分もあるが、見所は何と言っても、崩壊する地球の迫力ある映像だ。たぶん、これまで見た中でも最大級のパニック映像といえる。SFXが発達した時代だからこその映画でもある。


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