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蘇ったトロイの木馬

 僕だけだろうか。新しくできた駅が巨大な馬に見えるのは。
 「どや、馬に見えるやろ?」
 「そんなこと、気にするのは、あんただけやないの?」
 妻は、僕の言葉を歯牙にもかけない。

 神戸港沖に神戸空港が来年2月に開港する。今までは、島の中を四角い芋虫がのろのろと一方通行で回っていたが、今度は、空港までの路線を新たに加えることになり、それに伴って「中公園駅」に新しい駅ができた。工事中は気がつかなかったが、完成間近になってから神話的姿を表した。
 「しかも単なる馬、ちゃうで。モノレールの駅やから背が高いやろ。まるで、トロイの木馬や」
 「ほんま、あんた、閑人やな。そんなことばっかり考えて」

 数ヵ月後、空港線はまだ開通していないが、新しい駅に、乗降客が利用し始めた。駅から人々がどっとはき出されてくる。元気な人も、くたびれた人も、学生も勤め人も。ギリシャ神話では、トロイの市民が勝利の美酒に酔って寝込んだところを、トロイの木馬の中に潜んでいた兵士たちが木馬から出て襲い、勝利に導いた。新駅からできた人々は、兵士のように屈強ではないが、広がる格差社会の中で必死に生き残るために、そして何よりも自分や家族のための闘っている兵士であると考えられなくもない。

 神戸は1868年(慶応3年)に開港していて以来、国際貿易港として栄えてきた。その貿易港としての役目も終焉を迎えようとしている昨今、空港都市として再び飛躍しようとして、多くの住民の反対を押し切って空港を作り、駅も作った。トロイの木馬はトロイを滅ぼし、ギリシャを勝利に導いたが、この木馬は何をもたらすのだろうか。

従来の建物(左側)に隣接して建設。渡り廊下でつながれた増設駅だ。空港線は2006年2月に開通した。三宮から神戸空港まで18分間で運行する。
(蘇ったトロイの木馬のコピーは、2005年作成)